特集

ぐるなび

東京都内の“おいしい”探訪記

2017.7.26

「餃子ライスは出しません。合うか合わないかではなくて中国の文化だからです」

豚八戒 マダム 陳 培霞

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ラーメンと並んで餃子は、中国発祥の料理であることを、つい忘れてしまうメニューだ。繁華街にあるチェーン店で、生ビールを注文して餃子の焼き上がるのを待ち、テーブルに運ばれて来たらライスと一緒にかっこむというのは、とても身近で楽しい時間に違いない。熱い餃子を白いご飯の上で休憩させながら口に運ぶ。次はハフハフ言いながらタレのしみた白いご飯を頬張る。この繰り返しを想像して暖簾をくぐる。

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阿佐ヶ谷駅から線路沿いを歩き、路地の角にあるのが「豚八戒」だ。餃子が美味しいと評判の店で、予約が取りにくいことでも知られる。もし、運良く7席あるカウンターの一つに座れたとして、餃子と一緒にライスを頼もうものなら、マダムから諭されることだろう。曰く「中国では餃子は御飯と一緒に食べない。だからここでも出しません」。

決して厳しい表情ではなく、アーモンドのような曲線を描く美しい目を大きく開けて、こちらに凛とした視線をよこす。夫でありオーナーの香山謙吾さんは、少し困ったような笑顔になりながら「すみませんね」と一言を付け加える。あの餃子とライスの反復を味わえないのかと一瞬、寂しい気持ちになるが、一方で本場中国の餃子とはどんなものなのかと新たな期待に胸が踊る。

チョークで手書きのおすすめメニュー

考えてみれば店の佇まいからして、どこか中国の街を旅しているような雰囲気だった。曇りガラスで3分の2が見えない引き戸。軒はトタン屋根になっていて、その上に「餃子坊 豚八戒」の看板が取り付けられている。2階も客席なのか大きな窓が開けられ、空気の入れ替えをしているように見える。洗濯物が干してあったとしても違和感はないだろう。

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入口脇には黒板が据えられ、メニューがチョークで手書きしてある。紹興酒が入っていたらしき壺が、足元を狭くしている。テーマパークにあるような演出された外観ではなく、自然にそうなってしまったということなのであろう。店に足を踏み入れる前から、本場の味であることを確信する。

薄味ながらも記憶に残る一品

とりあえず餃子を2皿と注文したくなる気持ちを抑えて、メニューを熟視する。ふと横の壁を見れば、赤いフサを付けたひし形の黒板に「おすすめ」の文字が読み取れる。お世辞にもキレイな書き方ではない。手で消したようなあとが残っている。この自然体な感じが、不思議と居心地を良くさせている。

まずは酒のあてに「高菜と枝豆のあえもの」(450円、税込み以下同)を注文。そしてもう一品、手元にあるメニューから、中華風冷奴(340円)を選択した。

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2品は同時にテーブルに運ばれてきた。まずは冷奴から食べることにする。豆腐を裏ごしして塩とゴマ油を加えただけのシンプルなメニューだが、香りの強いネギを使っていて、うす味の料理のアクセントになっている。

大豆のやさしい甘みが口の中に広がり、あとから追いかけてくる穏やかな塩味が、さらに甘さを強調する。鼻に抜けば、ゴマ油の香ばしさに続いて、きりっとしたネギの香りでビールにも紹興酒にも合わせやすい。食欲のスイッチを入れるのにふさわしい一品だ。

高菜と枝豆のあえものは、食感の異なる2つの食材を使うことで、味わいを立体的にしている。高菜は砂糖で少し甘みをつけてあり、同じくゴマ油の香りをまとわせている。枝豆の風味も失われておらず、1度箸をつけると止まらなくなる。自己主張の少ないおとなしめの味ながら、しっかりと記憶に残る。

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「じゃがいもの細切り」(450円)。トウガラシと塩味をベースに自家製の花山椒オイルで香りがつけられている。酒が進みすぎる危険な一品

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