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ぐるなび

東京都内の“おいしい”探訪記

2017.9.20

「いつもよりもぜいたくに、トリュフを前菜からメインにまで使った限定プランを用意しました」

フラスピリア オーナーシェフ 北川泰行

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隠れ家のようなレストランが住宅街にあるとは限らない。東京駅から近く、地下鉄の大手町から直結した日本生命ビルの2階に、ビストロ「フラスピリア」がある。いかにも仕事ができそうなビジネスパーソンとすれ違いながら、エスカレーターで店へと向かう。「親しい友達の家に来たようなつもりで食事を楽しんで欲しい」とオーナーシェフの北川泰行氏は笑顔で迎えてくれた。

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実はこの店、カジュアルな雰囲気だからといってあなどれない。北川シェフは「ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル」や老舗フレンチ「ラ・ロシェル」(渋谷本店、当時) などで修業した後、南フランスを中心に2年間、ビストロだけでなく星付きレストランで研修を重ねた経験を持つ実力者なのだ。そこで今回は特別に、「クラブミシュラン」の会員のために、秋の味覚が味わえる限定プランを作ってもらった。

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10年以上作り続けている鴨の生ハム

「フラスピリア」で用意しているのは、通常ならば2,800円(税込、以下同)、3,800円、5,800円の3コース。「クラブミシュラン」のための特別プランは、秋の味覚をふんだんに使って、前菜、スープ、パスタ、メイン、デザートの5品からなる7,800円のコース。 どの料理にもトリュフを使うなど、食材にこだわることで、いつもより贅沢な味わいを目指したという。2017年10月2日(月)から31日(火)までの限定であるだけに、早めの予約をおすすめしたい。

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前菜は「自家製鴨生ハムと栃木県渡辺農園野菜のサラダ、トリュフドレッシング」(写真上)。ズッキーニ、ゼブラトマト、モロッコインゲン、マイクロキュウリなど何種類もの野菜が顔をのぞかせるところに、鴨の生ハムが彩りを加え、カリっと仕上げたゴボウが頂に乗っている。10月には、写真とはまた違った秋の野菜が皿をにぎわすことになるだろう。

目で味わうことの幸せ。いつまでも眺めていたい気持ちをおさえて、せっかくの野菜の“塔”を崩さないようにしながら、まずはマイクロキュウリを口に運ぶ。トリュフの香りが鼻に抜ける。しっかりとした野菜の味に負けないためには、やや強めの塩加減が必要なのだろう。野菜の名前の答え合わせをしながら、それぞれに異なる自然の味わいを確かめていく。自分をじらしたいような気持ちになり、まだ手をつけていなかった生ハムを食べることにする。

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(左)店内にはヨーロッパの雰囲気漂う可愛らしいインテリアが飾り付けられている。(右)カウンター奥に立つ、北川さんの華麗な手さばきにうっとり

北川シェフが10年以上作り続けているという自信の一品だ。ねっとりとした食感で、なかなか舌の上から離れようとしない。桜のチップの薫製とトリュフドレッシングの香りが、次第に合わさる頃、少しずつ肉片が喉の奥へと消えていく。口の中に残る旨さをいったん、次の野菜でリセットして、もう一度生ハムを味わう。今度はセミドライならではのジューシーな旨みを、しっかりと意識する。

2種類の茸で秋ならではの味に

次のスープは「長崎天然真鯛のポシェ、ジロール茸とマッシュルーム」(写真下)。まずは一口、スープだけを味わえば、二つのキノコのうま味と、真鯛の力強い味わい、さらに刻んで入れたトリュフの香りが一体となっている。もちろん、具材もしっかりとした味わいで、ゆっくりと噛みしめれば、旨みを引き出した塩コショウが、口の中ではじけていくような印象を与える。

これはもはやスープではない。魚料理と言ってもいいだろう。

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コースの品数は多くない。ポーションを小さめにして皿数を増やすというのが、日本におけるイタリアンやフレンチのスタイルになりつつある。いろいろ味わいたいが、量を食べられないという平均的な日本人に向けてのサービスだ。その流れに逆行するかのように、しっかりとした一皿になっているのは、海外での修業時に自然に身に付いた習慣なのかもしれない。

焦げた皮の苦味をうま味に変えるトリュフ

次に運ばれてきたのは「北海道のサンマの炙り、ジャガイモとトリュフの生パスタ」(写真下)である。三枚におろしたサンマの皮をしっかりバーナーで焦がしている。この苦みがトリュフと合わさるとうま味に変わるから不思議だ。大事なのは火加減。ぼそぼそではなく、ほろほろと崩れていくのを狙っている。

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もちもちした麺と、口の中に入れたとたんバラバラになるサンマを、ジャガイモが受け止める。この食材の組み合わせであっても、軽やかな味わいに感じるのは、ひかえめな塩加減と、ニンニクの風味を効かせて、やさしい口当たりになるように乳化させたソースの効果に違いない。結構な分量ながら、もう少し食べたいと思わせる魅力にあふれている。

さざ波のような食感 を持つ絶品スフレ

いよいよメイン。想像を超えたものがテーブルの上に登場して驚く。「ホロホロ鳥とポルチーニ茸のクリーム煮を詰めたスフレ」である。メニューの写真を撮ろうとしている間に、少しずつスフレは小さくなっていく。テーブルに置かれたら、すぐ食べるのがマナーだろう。

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よくあるデザートのスフレと違い、スプーンを入れると弾力を感じる。軽くかき回すようにして、クリーム煮と一緒に味わう。一晩、塩をして寝かせたホロホロ鳥のうま味が、口の中いっぱいに広がる。それにしても増して印象的なのが、スフレの食感だ。かきまぜるときに、ひだになった部分が形をとどめていて、口の中でさざ波のようなリズムになって舌を刺激する。クリーム煮とのバランスが、少しずつ変化するのが面白い。

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スフレは北川シェフの得意料理だ。フランスからの帰国後、シェフとなって2軒目のレストランである東京・神楽坂の「メゾン・ド・ラ・ブルゴーニュ」では、ランチにスフレを出していて、毎日30を超える数を作っていたという。オーブンに入れる前に、真剣な顔でありながら、楽しそうにスフレの形を作っていくシェフの姿は、経験に裏打ちされた自信にあふれている。

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締めにちょうどいい小さなパフェ

最後に登場するデザートは可愛らしいパフェである。ボリュームがある料理をこなしてきた身には、ちょうどいい大きさに感じる。栗のペーストを使ったいわゆる「モンブランパフェ」だ。控えめの甘さと、さっぱりとしたクリーム感でありながら、味わいの余韻は長い。シェフではなく、パティシエが作ったといっても納得するだろう。目をつぶって、ここまで登場してきた秋の味覚の“復習”をしたくなる。最後まで手抜きのないところが、北川シェフのサービス精神であり、すごさなのだ。

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料理人としての道のりを濃縮して味わう

これだけの一等地に、若手であるのにもかかわらず出店できたのには理由がある。日本生命が主催する「チャレンジキッチン2014」に優勝して、この建物での開業独立を支援してもらったからだ。2014年11月にオープンして、2016年にはビブグルマンに選ばれた。審査委員の目は確かだったのだ。数多くの苦労と経験を重ねて、ようやくたどりついた東京都心部のオフィスビルの店。北川シェフがたどってきた料理人としての道のりを、1回のコースで濃縮して味わえるのは福音だろう。

しかも、今回は秋の味覚を堪能するための特別なプランであるだけに、なおさら価値が高い。 吹き抜けとなった空間を見下ろせば、忙しそうに行き来するビジネスパーソンの姿が見える。フラスピリアの店の前だけ、地中海の風が吹いている。小さな秋を見つけるように、隠れ家レストランは日常のすぐそばに潜んでいた。だが、そこで待っているのはハレの日のご馳走である。

撮影・取材/寺尾 豊(フリーライター、映像作家)

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この記事でご紹介したお店のコース

取材した施設

  • レストラン欧風料理 フラスピリア

    東京都千代田区丸の内 1-1-3 日本生命丸の内ガーデンタワー2F

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