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ぐるなび

わざわざ出かけたい国内グルメ旅

2018.5.9

「先人を真似るのではなく、自分らしい日本料理を目指しています」

是しん 店主 関根 崇一

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食い倒れの街・大阪で愛される雅な日本料理

2017年11月『ミシュランガイド京都・大阪 2018』が発売、12月には『ミシュランガイド東京 2018』が発売となった。そこで先週から引き続き、それらに新しく登場した店を紹介していく。2軒目は、今回『ミシュランガイド京都・大阪 2018』に新しく登場し、一つ星として掲載された日本料理「是しん(ぜしん)」。店主の関根 崇一氏は、大阪発祥の老舗料亭で11年研鑽を積み、2013年に独立。料亭時代にはお客さんの顔を見ながら料理を作る機会がなかったため、自身の店では「お客さんの反応を直接確かめたい」と、カウンター席をメインに設けた。店内には本格的な茶室が備えられるなど、和風建築の意匠が随所に取り入れられている。

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「日本料理の伝統を継承することは大切ですが、先人のしてきたことをなぞるだけではダメだと思っています」と関根氏。例えば、魚の炭火焼きは低温調理してから炭火で焼くことでより身をしっとり仕上げているし、鰻は焼いた後、燻製にかけて香ばしさを増している。通常の日本料理における調理工程の中にも、さらなる工夫を施しているのだ。

今の時代だからなしえる低温調理をはじめ、関根氏は気になる調理法はいろんな食材で試し研究する。自身が苦手であった鮒寿司は、苦手な自分でも食べられるようもっとまろやかにならないかと試行錯誤を繰り返し、鮒鮨を飯(いい)ごと半年以上酒粕で漬けることを考案。粕漬けにした鮒鮨は、鮒寿司特有の酸味が和らぎ、これまで鮒寿司が苦手だった客が自ら注文するようになったほど好評だそうだ。

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また、今ではあまり作られなくなった伝統的な料理にも注目する。冬にしぼった酒粕を翌年の秋まで寝かせた後、調味料を加え、ブリを漬けた「加賀漬」は江戸時代、加賀百万石のお殿様に献上していた料理で、「是しん」ではブリのシーズンに毎年提供されている。

コースは昼6,000円(税・サ別、以下同)、夜は12,000円から。12,000円のコースの内容は、付きだし、造り、椀物、八寸、焼き物、煮物、土鍋で炊いた変わりごはん、水菓子、和菓子と抹茶と続き、最後は1時間かけて煎った茶葉を挽き、塩を入れた塩番茶が供される。

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八寸には旬の食材が供され、取材時は牡蠣の七輪焼きも。

料理は月ごとに変わり、取材時(11月)の付きだしは、「焼き雲子(鱈の白子)・蕪のみぞれ仕立て」。雲子を炭火で焼き、表面は香ばしく中はとろとろに、だしで炊いた蕪のすりおろしが口の中でまろやかに溶け合う。次に続く造り(写真下)は、2カ月弱しか漁獲を許されていない松葉ガニのメス、勢子蟹をはじめ、皿の絵柄が透けて見えるほど薄くひかれた明石の鯛などを盛り合わせている。

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さしずめコース料理でメインに当たるものは、茶懐石においては煮物椀となる。この日の煮物椀は島根県産一本釣りの甘鯛を主役に大黒しめじ、ミニチンゲン菜を添えたもの。「甘鯛は一度、昆布でしめてから酒蒸しにしています。そうすることでうまみが引き出され、濃厚なだしに負けず味わいが増すんです。」と関根氏。吸い地には味が濃く、それでいて澄んだだしが取れる羅臼昆布と、カビ付け作業を5回行った燻製香豊かな枯れ節を使用する。ひと口飲めばだしのうまみが押し寄せる。

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(左)11月の突き出し「焼き雲子(鱈の白子)・蕪のみぞれ仕立て」。(右)甘鯛の椀物

昼はほとんど女性客が占めるそうだが、華やかな盛りつけも好まれる理由の一つであろう。特に八寸(写真下)は季節感に溢れ、人数分を大皿に盛りつけることも多く、色鮮やかに美しい。この日の八寸は、収穫後、1カ月間じっくり寝かせ、糖度を上げた高級栗の一種である銀寄栗(ぎんよせぐり)の甘露煮。早堀りタケノコの炭火焼きはアクがなく、とうもろこしのような甘さを感じる。蕪のようにきめが細かく、それでいて炊いても形が崩れない京丹後の大根「静御前」の炊き合わせなど、一般にあまり出回っていない野菜も積極的に取り入れ、食材に合った調理法でおいしさを引き出している。

また、酒粕と白味噌で漬け込んだ白カビタイプのブリーチーズや子持ち鮎の煮浸しなど、日本酒が進む肴も豊富だ。柿のなますもハチミツを使った胡麻クリームで和え、しっかりと深みのある味付けが、お酒に合わせることを考慮されている。

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さらに八寸の後に続く焼き物や煮物には、松阪牛の炭火焼きや煮込みなど、肉料理も多く登場し食べ応えがある。「大阪で店をやっていくからにはコストパフォーマンスが高くないと。そしてちょっと派手なぐらいが喜ばれますね」と、関根氏。サービス精神旺盛ゆえ、4年前のオープン当初は「量と品数が多すぎる」と客から指摘されたこともあったとか。現在はその頃よりは控えめになったそうだが、まだまだボリューム満点だ。

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店内には茶室が設けられており、その前には手水鉢まである。茶事を行える料亭は少なくないが、個人が営む日本料理店で店内に本格的な茶室が設けられているのは珍しい。通常の営業では雅やかな料理を得意とする関根氏だが、茶懐石ではその真逆に。ムダのない引き算の美学が大切にされている。

関根氏自身が日本酒好きということもあり、日本酒は常時30~40種類をラインアップ。メニューはあえて置かず、客の好みを聞いた上で3、4銘柄を選び、会話をしながら決めていくスタイルだ。日本料理店でここまで日本酒をそろえている店は珍しく、常連には日本酒好きも多いそう。

「食中酒にはスッキリ辛口が好まれますが、うちは甘口も多くそろえています。いい日本酒は甘口でも甘ったるさがなく、お造りにもよく合うので、飲まず嫌いにならずにぜひ試していただきたいです」と。カウンター席の後ろに配されたガラス棚には、オールドバカラのグラスや薩摩切り子の猪口がズラリと並び、酒器を選ぶのも楽しい。

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驚きや発見の多い創作系と異なり、日本料理はともすると無難に感じるかもしれない。しかし、「是しん」の日本料理は、慣れ親しんだ料理さえも再度そのおいしさを発見することができる。そして、メリハリあるコース展開や華やかな盛りつけなど、その丁寧な仕事の中に、客の心を満たそうと工夫し続ける店主の思いやりを感じることだろう。 “食い倒れの街・大阪”で愛されるのも納得だ。

※2017年11月取材 (メニュー・価格は取材時の内容となります)

撮影/平賀 元 取材・文/ 天野準子(編集・ライター)

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取材した施設

  • レストラン日本料理 是しん

    大阪市北区西天満 2-9-3 西天満大治ロイヤービル B1F

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