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ぐるなび

わざわざ出かけたい国内グルメ旅

2018.5.23

「料理だけを大切にするのではなく、お客様に日本の文化に触れて、またそのひと時を愉しんでいただける、料理を通したその世界観一体を大切にしたいです。」

飯田 店主 飯田真一

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京都市内、京都市役所駅から歩いて程近い閑静な小路に、一軒の美しい料亭がある。元々は茶道具屋だったという、昭和初期に建てられた風情漂う建物。店主がその美しさに惚れ込み、カウンターと厨房以外は手を施さず、当時に近い形のまま今もなお客を迎えている。

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広々とした玄関を上がると、掘りごたつ式のカウンター座席と坪庭、廊下を伝うその奥には4名までが使用できる座敷がある。

店主の飯田真一氏は、埼玉県出身の42歳。金沢と京都で研鑽を積んだ後の2010年に「飯田」を開店した。オープン1年で『ミシュランガイド京都・大阪・神戸・奈良 2012』で一つ星として掲載。『ミシュランガイド関西 2015』にて二つ星に昇格、そして昨年発表された『ミシュランガイド京都・大阪 2018』では三つ星として、さらに評価を上げたのである。今や数カ月先まで予約が困難となった「飯田」。今回、その躍進し続ける裏舞台を問う。

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「料理人を志した18歳の頃、どうせやるなら日本料理の頂点が集まる京都で修業をしたいと考えていました。でも当時は、紹介がないと名の通った店では修業をさせてもらえなかったんです。京都に縁のない自分には、そういった伝手もなくて。そこでまずは、城下町の文化が色濃く、懐石料理として加賀料理が根付いている金沢を、最初の修業先に選びました」。

それから約7年間金沢で修業、25歳で念願の京都へ。修業先の主人に紹介をもらい、28歳からは「祇園丸山」でお世話になった。料理人としても10年目に突入し、自信も実力もついてきた飯田氏だが、そこで大きな衝撃を受けたという。

「それまでは、包丁さばきや繊細な盛り付けなど、自分の調理技術を高めていくことだけに注力していたんです。とにかく料理人として腕を磨くことだけ考えていました。その分、料理以外のことはまったく意識していなくて。おもてなしやサービスに関しては、自分の役割ではないと思っていました。でも『祇園丸山』では、お店のことはすべて、料理人がやるのがあたりまえなんです。調度品から器選び、お花、香まで。これらは、日本人の精神の核となる部分です。設えや道具から、お客様の目に入るもの全てに行き届く視点、店主としての在り方を学びました」。

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その視点は「飯田」の器使いにも表れている。取材時、最初にもてなされたお茶は静嘉堂の銀茶器、湯飲みは白井半七の乾山写しで出された。飯田氏は、修業時代から休みの日には骨董店に足を運び、器と向き合う時間を大切にしている。料理の流れを計算しながら、永樂や魯山人などといった名品を繊細な料理にあわせ演出する。「器でも季節や色使いで楽しんでいただきたくて。時代や価格にこだわらず、料理にあわせて緩急をつけた演出を心がけています」と飯田氏。骨董や器の知識がなくとも、本物が放つ空気感や美しさに心を奪われてしまう。

「飯田」の料理は25,000円(税・サ別)から。おまかせのみなので、食材によって献立や金額がかわる。基本の流れは、先付、お椀、向付、御凌ぎ、強肴、焼物、進肴、炊き合わせ、水菓子、お茶菓子、お濃茶、お薄の順。茶事の際、主催者である亭主が来客をもてなす料理として生まれた茶懐石が礎となっている。食事を通して四季や美術、日本文化の良さを感じることのできる貴重な食体験がここには詰まっている。

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お椀には「うずらの叩き寄せ」。かつお節を手削りにこだわるのは「やっぱり人の手のおいしさには勝てない」から。さらに、香りが格段に違うという一番だしは、美しい飴色でうまみがぎゅっと凝縮されている。ねっとりとしたもち銀杏とうずらの叩き寄せに、柚子の爽やかさと山椒の刺激がピリリと心地よく感じられる。

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使われている器は、大正時代の輪島塗。紅葉と桜の柄が数種類あり、季節によって柄の比率を選んでいるという。取材時の11月は、お茶の世界では“茶人の正月”と言われるくらい、 1年の中でもっとも大切な節目の月。紅葉のみの、おめでたい柄で茶懐石料理を組み立てているのだそう。

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向付には愛媛県 八幡浜で一本釣されたというシロアマダイのお造り。珍しい大樋焼の乾山写しがそれを引き立てている。「ここのシロアマダイは日本一といわれていて、どんなにベテランの漁師さんでも坊主の日があるくらい貴重な魚です。でもその分味は格別においしい。仕入れてもらえた日は値段も聞かず購入しています」と飯田氏。添えられるのは、北海道 根室でとれたウニと有明でとれた海苔、土佐酢を使った菊酢漬けに、安曇野産のわさび、そしてシロアマダイの鱗揚げである。「この鱗揚げは、造りを引いている間に裏であぶっています。醤油に浸した瞬間に湧き上がる香りは、炙りたてでないと感じられないんです。調理だけでもやることが多いので、自分自身が納得できるお客様の人数で店を回しています」。

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店内には最大6名のカウンター席と、2~4名で利用できる個室一部屋のみ。充分な広さがありつつも、この人数に限定して受け入れる点も「飯田」流のおもてなしのひとつであろう。

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次の強肴には、とんぶり蒸が登場した。丹波産のつくね芋で包んだ明石の鰆とカラスミの上に、同じ丹波産の栗をけずって仕上げるこの店ならではの一品だ。10月から1カ月間栗を寝かし、甘みと香りを熟成。試行錯誤を繰り返し、バランスを整えるのに2年かかったという。「この料理は華やかさはないかもしれもしれませんが、緻密な計算を重ねて仕上がったもの。だからこそ料理の着物である、器選びが重要だと考えました。間違いなく魯山人の器が合うと」。

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魯山人の器には、独特の“間”があると言われ、料理を惹きたて、器と料理双方が輝くと言われている。実際、目の前に出された瞬間その場の空気が変わったように感じた。こだわっているのは器だけではない。「けやきの匙(さじ)は、島根の漆器店へ特注しています。他の店で使用したときに、口当たりのよさに本気で驚いて、一瞬で惚れこみました」。飯田氏が日本一だと太鼓判を押すその匙は、柔らかな木の優しさと曲線のなめらかさがほかとは別格に違う。

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2013年に設えたスズ竹網代の手編み天井。手編みできる職人は日本でも3人くらいしかいないのだそう。

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カウンター奥には手入れの行き届いた坪庭が。春には椿やつづじが、秋には紅葉が色づく。

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ときどき近所の猫が遊びに来ることも。

「料理だけを大切にするのではなく、お客様に日本の文化に触れて、またそのひと時を愉しんでいただける、料理を通したその世界観一体を大切にしたいです。帰る際に名残おしくなるような、居心地のよい空間でおもてなしする。これからも日本料理と京都を愛する、一職人として、真摯に向き合っていきたいと思います」と語ってくれた。

「飯田」で過ごす時間には、凛とした独特の空気感の中に、今まで体験したことのない満たされた寛ぎがある。それは、店主が真剣に向き合い続ける料理や器にも共通する、深い真心や、店を構成する悠久の日本美学に、私たちもそっと触れることができるからなのかもしれない。

撮影・取材/クラブミシュラン 岡久加苗(ぐるなび)

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取材した施設

  • レストラン日本料理 飯田

    京都市中京区姉小路富小路西入南側福長町 120-1

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