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ぐるなび

東京都内の“おいしい”探訪記

2018.8.16

「銀座では、すべてにおいていいものを知っている、厳しい目を持つお客様に、“育てていただいてる感覚”です」 

銀座 いしざき オーナーシェフ 石﨑 洋一

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平日の夜、人通りのピークを迎える銀座8丁目。競争激しいこの土地で、2016年8月にオープンした「銀座 いしざき」は、『ミシュランガイド東京 2018』にあらたに一つ星として掲載された和牛料理のお店だ。

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ビルの4階にある店内は、奥に長い敷地をいかし、一席ずつゆったり配されたカウンター6席とテーブル席が6席。

「以前いたお店も同じ銀座でしたが、せっかく一流の街で勝負するなら、夜の銀座が一番賑わうクラブエリアのド真ん中、銀座7・8丁目で挑みたかった」と話すのは、オーナーシェフの石﨑洋一氏。

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石﨑氏は、横浜で代々続く精肉店が銀座で運営する山形牛専門店のオープン時より参画。2008年から2015年までシェフとして活躍した、言わば“肉の匠”だ。満を持してオープンした自身の店「銀座 いしざき」でも、肉づくしのコースを主軸とするが、牛肉の仕入れから、調理法、コース内容までを一から再構築。常連客を含め、新たに楽しんでもらいたいという心意気が感じられる。例えばそれは、氏のスペシャリテともいえる「自家製コンビーフ」や、締めで人気の「カレー」のレシピをイチから作り直したこと、自家製ソースを使った「かき氷」という新しい試みからも受けてとれるだろう。メニューはコースが基本だが、21時以降で石﨑氏の手が空いていれば、アラカルトで食べたいというお客にも、臨機応変に対応してくれるという使い勝手のよさも魅力だ。

「深夜でもきちんと食事ができるお店ってなかなかないので、AM1時くらいまでに入っていただければ、3時くらいまでは営業しています。『サラダとステーキだけ』とか『ステーキとかき氷だけ』と、締めに使っていただくことも多いですね。」

深夜メシにかき氷…と、銀座の夏の夜遊びに覚えておきたい「銀座 いしざき」の魅力に、さらに迫る。

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石﨑氏のこだわりは、自身がセレクトした良質な和牛にうまみをさらに凝縮させるために手間を惜しまずかけること。

「ブロックで仕入れたあとは、カットの仕方や下処理、保存法でもおいしさが格段に変わってきます。肉の水分が多いと表面がカリッと仕上がらないため、水分量をコントロールする必要があるのですが、赤身のモモは水分が多かったりと、部位ごとに水分量が異なります。ひと手間、ふた手間をかけて、お客様へ出せるステーキとして一番いい状態まで持っていくのには、数日から1週間ほどかかりますね。」

一般的な店では、牛肉の水分を取るために、さらしが巻かれた状態を目にするが、その状態ではどうしても表面は空気に触れて肉が黒ずんでいくため、独自の保存法をとっているという。

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メインのお肉は、その日のおすすめの部位をお客様に選んでもらう。本日は、奥から時計回りにサーロイン、シャトーブリアン、ランプ、牛タンの4種からチョイス。一般的に、出産を繰り返した牛は、栄養が子どもに取られて味が落ちてしまうとされ、未経産牛(処女牛)のみを扱う。

メニューの基本は、『シェフのおすすめコース』22,000円(税・サ別)から。スペシャリテである自家製コンビーフを突き出しに、刺身やスープ、冷前菜、サラダ、温前菜、ステーキ、デザートの7-8品で構成される。

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この日撮影したのは、サーロインを使った生ハムと、薫り高きトリュフが贅沢に盛り付けられたサラダ。内側のイタリア産のブッラータチーズを覆うように、ほろ苦いセルバチコ(ワイルド・ルッコラ)やからし菜、わさび菜などの葉物がミックスされ、旬のフルーツの甘さを引き立てている。生肉に見紛うほどのフレッシュな生ハムは、箸でほぐれていく柔らかさで、葉物を肉でくるんで食べるような感覚だ。

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本日のステーキはサーロインをチョイスし、コースの一番の見せ場ともいうべき、焼き場へ。石﨑氏がこだわる火入れは、ごく弱火のフライパンで30-40分、さらに余熱で火を通しいったん休ませてから、高温の油で表面だけ素揚げするようにカリッとさせる。

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「肉は、中心の芯温まで温かくなると、弾力が残りながらも芯からふんわりと柔らかい状態になるので、その状態のまま高温の油で短時間で焼き揚げれば、表面はカリッと、中側はふんわりとした最高の状態に仕上がります。一般的な、最初に表面だけを焼いて、ゆっくり弱火で内側に火を通していくやり方だと、どうしても分厚いお肉では、中まで火が通る前に表面が焦げてしまいます。」

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フライパンからあげられたお肉は、まさにキツネ色。焼きあがったサーロインの断面は、均等に熱が通っている証拠に、濃淡なく綺麗なピンク色だ。ゆっくりと丁寧に火を入れているため、「カットした時も肉汁が溢れ出てくることもないんです」と、経験と研究を重ねてきた石﨑氏の言葉には、肉への愛情を感じさせる。

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付け合わせは、定番のキャベツの甘酢漬けと、季節ごとに変わるという野菜。本日はオーブンでじっくりと甘さを引き出された、赤タマネギ。味付けは塩胡椒とシンプルなので、薬味は岩塩やワサビ、生の黒胡椒ペースト、フルーツガーリック(ペースト状にした黒にんにく使用)、醤油に漬け込んだ粒マスタードと、5種類が添えられる。

「サーロインは脂が強いので、酸みがほどよく効いた粒マスタードやワサビなど、赤身の部位だと黒胡椒や黒にんにくのスパイスっぽさが合うかと思います。」

もちろん口に入れると、肉汁はどっぷりと溢れ出す。

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肉は塊で仕入れて、ステーキとして出さない部分は、スープにしたり、しぐれ煮にしたりと、脂を除いてすべて使い切るようにしている。

コースの締めは、スネ肉のみで作っているという特製カレーや、牛丼、コンビーフの卵掛けご版、牛肉のしぐれ煮を使った雑炊などからチョイスが可能。人気はカレーやコンビーフの卵かけご飯だ。

デザートには、自身の店を構えるにあたり、新たな挑戦となったかき氷を一年を通し提供する。旬や季節感を取り入れた手作りのソースは通常8種類ほどから選ぶことができ、取材時は、果実を贅沢に使ったイチゴやマンゴー、メロン、モモに加え、チョコレートやコーヒー、チョコミント、宇治金時がラインナップ。これまで30種を超えるかき氷を創作してきたという。

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「肉や締めのご版を食べた後に、プリンやケーキなどのデザートだとちょっと重たいですが、かき氷ならさっぱりと食べられますし、季節感も味わっていただけます。」

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女性に人気はマンゴー味。ソースは、マンゴーピューレにマスカルポーネチーズを合わせ、まろやかに仕上げている。
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石﨑氏が「男性にもおすすめ」というチョコレート味。ミルクと合わせたチョコレートソースに、さらに濃厚なチョコレートソースをダブルでかけて、かき氷ながら深みのある味わい。香りづけにラム酒をほんのり効かせ、お酒とも好相性。

また、「銀座 いしざき」では、ワインも60種以上を常備。肉づくしのコースゆえ、前菜や肉の刺身には白ワインや日本酒を合わせたり、煮込みやステーキには赤ワインなど、調理法やソースに合わせてソムリエがセレクトする。

銀座はすべてにおいていいものを知っている、厳しい目を持ったお客様が多く、ごまかしがきかない世界ゆえ、「お客様に育てていただいてる感覚」と話す石﨑氏。

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「銀座という土地柄、ときには無理難題を言うお客様もいらっしゃいますが、そう言っていただいて苦肉の策で作った料理が好評となり、定番メニュー化したものもあるんです。例えば、現在コースの締めで人気となっている「すき焼き丼」や「牛丼」もその一つ。炊きたての白ご飯にアテが欲しいというご要望にお応えして、薄切りにしたサーロインを甘辛くさっと焼き、卵黄をかけてすき焼きご飯のようなスタイルでお出ししたり、さらに進化して、肉にきちんと味を染み込ませて食べてもらえるように牛丼が生まれたりしました。」

「これも作れるんじゃない?」という期待の込められたオーダーは、客とシェフとの信頼関係があってこそなのだろう。それは、石﨑氏の求める理想の関係性でもあるようだ。

「特別扱いするわけではなく、常連さんに満足してもらえる店を目指すということは、料理や会話、マナーなど、すべてにおいて高いクオリティが求められるということだと思います。そこで向上できることで、お客様が安心して、また大切なご家族・ご友人などを連れて来てくださったりする。常連さんが幹となって、またそのお客様が枝葉となって木ができ、森となっていくのが、僕の理想のカタチですね。」

深夜メシやかき氷…といった付加価値が生まれてきた背景には、石﨑氏の「お客様に応えたい」という柔軟な姿勢が垣間見える。銀座だからといって敷居を高くせず、長年培った技術を惜しみなく提供してくれる。銀座の新しい夜を楽しみに出かけたい。

取材・文/藤井存希、撮影/庄司朋可(ぐるなび)

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