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ぐるなび

わざわざ出かけたい国内グルメ旅

2018.9.14

「いい食材を扱うほどに、“シンプルに素材の味を引き出す”という方向に自然と流れていきました」

御料理 まつ山 オーナー兼料理長 松山相三

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福岡県・博多駅から、小倉方面に向かう特急電車で約30分の黒崎駅。かつては製鉄工業で栄え、料亭文化が花開いたこの地は、2000年代初頭まではJR九州内での乗降客数が博多駅、小倉駅に次いで第3位であった大きな街である。その黒崎に、『ミシュランガイド福岡・佐賀 2014 特別版』に一つ星として掲載された日本料理店「御料理 まつ山」がある。今年8月に7周年を迎えた店を取り仕切るのは、オーナー兼料理長の松山相三氏。

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「お客様の約8割は地元の方々で、ありがたいことに、みなさん次の月の予約を入れてくださいます。“来月は何が食べられるんだろう?”という期待に応えるためにも、とくに旬の食材や季節を感じる料理にこだわります。」

福岡県は、海産物から畜産物まで、九州全土から鮮度が高く種類豊富な食材が集まる土地。安価でおいしいものが食べられると、食のレベルが全国でも高い地域と言われている。この場所で常連客に愛され続けることは、容易ではないと想像いただけるだろう。

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夜のメニューは、五節句や季節を感じる10-12品で構成される旬の献立である15,000円(税・サ別、以下同)のコース一本勝負(昼は6,000円のコースも用意)。今回は、取材時8月の献立の中からご紹介する。

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一品目は、松山氏みずから毎日氷を削って作っているという氷鉢(こおりばち)で供される、季節の前菜。北九州市 藍島(あいのしま)産の赤ウニの下には、6時間から半日ほど真空で昆布だしに浸し、純粋なうまみを引き出した蒸しアワビと、2種類の素麺が顔を出す。

「福岡県うきは市で作られる、油を使わずに手延べした素麺に、山芋を細く刻んで素麺状に仕上げたものを合わせて、シャキシャキの食感を加えています。一般的な素麺は油を使っているので、洗っても油臭さが残ってしまうのですが、この素麺は、だしを邪魔しません。山形のだだちゃ豆とマイクロトマト、オクラなど、素材の輪郭もはっきりと味わってもらえます。また、この時期は赤ウニが一番おいしい季節なので、日ごとにどこの赤ウニを使うかも重要になってきます。7月くらいまでは萩のもの、8月からは藍島のウニの味がとても濃くなってくるんです。」

澄み切っただしを味わいながら、ウニの濃い磯の香りや、アワビのうまみもじっくりと感じていく。

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ちなみに、8月を中心に、夏季限定で披露されるこちらの氷鉢。一日10~12個ほどを制作するというが、削らずに型で水を凍らせたものは、すぐに溶けてしまうため、一つ一つ手で削って作るそう。

「削った氷鉢を冷凍庫から取り出し、まだ表面が白っぽいうちに温かいだしを入れてしまうと、温度が急激に変わりすぎて割れてしまいます。少し溶けかけてきたときにだしを張らないと割れてしまうので、タイミングも重要なんです。」

地元で生まれ、昔から手先が器用だったという理由で、大手自動車メーカーのエンジニアから料理の世界に入ったという松山氏。そんな異色の経験をもつ松山氏ならではの、繊細なテクニックと言えるだろう。

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もっちりとした食感の胡麻豆腐に、下関市吉田地区の「吉田ナス」と、さきほどの赤ウニを蒸して重ねた椀物。ウニは蒸すことで、さらに味が濃くなるという。胡麻豆腐をはじめ、お椀のなかで素材を崩し食べていくと、だしの味の変化を徐々に愉しめる。

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近海で獲れた夏フグは、食感を楽しめる細さのフグ素麺に。松山氏いわく「フグは必ずしも冬だけでの食材ではないと思うんです。冬はもちろんてっちりがおいしいですが、夏は刺身や素麺でも」。

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のどぐろは、長崎県の「紅瞳(べにひとみ)」を、表面だけさっと炙ってうまみを引き出す。一般的な和食店では、バーナーで炙られることが多いが、「ガス臭さが残るから」と手間を惜しまず、炭焼きにこだわる。脂のうまみが凝縮された身は、切り込みに小さな松の実を挟んでいただく。一粒の松の実がのどぐろと合わさることで、しっかりと味わいが増す。

食材のうまみを引き出すため、一つ一つの食材に丁寧な仕事を施す松山氏。

「昔は、日本料理をベースにフレンチのような華美な料理を、あえてやっている時代もあったんです。お客様は『わー』と声も上げてくれるし、集客もできる。でも、いい食材を扱えば扱うほど、『どうやって、この素材の味を引き出していけばいいか?』という方向に自然と流れていきました。素材を切り刻んだり、こねたりを繰り返していると、不思議と味も切り刻まれてしまうのを実感したんです。ウニにしても、ナスにしても、こねくり回した味を食べてもらいたいのではなく、手をかけて一番いい状態で食べてもらいたいと思っています。」

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コースのメインは、松山氏が「できるだけ毎月提供できるように確保していきたい」と話す、鹿児島産のブランド牛のシャトーブリアン。58度の真空低温調理で3時間ほど熱を入れ、最後に炭火で表面だけ焼き色をつけている。

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「これは鹿児島黒牛でもA5等級の牛をより集め、その中でも特別に品質が高い上位4%の希少な牛肉です。僕はこれを食べてから、ほかでお肉を食べてもなかなか感動できなくなったほどです。繊細なサシが細かく入っているので、くどさがまったくなく、肉の味自体の濃さが違うんです。A5等級の牛は、ビタミンAをある程度増減させることでサシをコントロールできるのですが、操作されたものは、肉の味が薄くなってしまうため、これはまさに自然の賜物。本当にいい牛肉は、味付けをさほどしなくとも、咀嚼していくことで、肉のうまみがどんどん溢れてくるんです。」

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白米は、滋賀まで買い付けに行ったという信楽焼の窯で炊く。焼き手によって、米の炊きあがりもまったく異なるという。ごはんには、からすみとちりめんをアテに(コース外)。これに赤だしがつく。

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最後は、季節のフルーツを使ったデザート。松山氏こだわりのアイスクリームが供されることが多いそうだが、このアイスクリームが話題となり、店の近くにアイスクリーム専門店までオープンしてしまった。松山氏が監修し、熊本産のジャージー牛乳と同じく生クリームをふんだんに使用したアイスクリームは、季節限定のフレーバーも含め、常時15種類を揃える。

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2つの店を切り盛りする合間、松山氏は農水省からの依頼で、年に3回ほど「和食」の食育事業にも協力する。

「現代は共働き世代が多いので、自宅でお母さんがゆっくりだしを引いた料理はなかなか出すことができません。そのため、どうしても和食離れが進んでいます。そこで、給食でも一汁二菜など、和食と呼べる献立を増やすための取り組みを、栄養士さんと一緒に行ったり、ときには子供たちも交えてディスカッションをしています。全国の方に、この土地の食の素晴らしさを知ってもらいたいですし、若手を育てていく意味でも、食育の重要さを感じています。

寿司のためなら全国を訪れる方もたくさんいます。けれど和食は、京都や金沢など土地柄で選ばれることも多く、北九州という豊富な食材が集まる土地なのに足を運んでもらえないことが、もどかしいと感じることがあります。地方で話題の和食店には、どうやって全国からお客さんを集めているか、自分もそのヒントを探しに各地を頻繁に訪れたりしています。」

「御料理 まつ山」は、7周年を機に、新たな局面を迎える。今年12月末まで営業し、2ヶ月の改装期間を経て、2019年3月にリニューアルオープンする予定だ。

「現在のテーブル席をカウンター席のみに集約し、より限られた人数のお客様に最高レベルのものを届けたいと考えています。移転なども考えましたが、やはり北九州・黒崎で勝負しようと思いました。」

現状に甘んじず、高いレベルで挑戦・研究し続ける松山氏。5年後、10年後と進化を遂げる料理人の姿から目が離せない。

取材・文/藤井存希、撮影/(株)三輪組

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