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ぐるなび

わざわざ出かけたい国内グルメ旅

2018.11.1

今回の旅の目的地は愛媛県。2018年4月の『ミシュランガイド広島・愛媛 2018 特別版』の発刊を記念して、広島県・愛媛県のグルメと魅力を【前編】と【後編】2回に分けてお届けします。

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広島県・愛媛県は、瀬戸内海をはさみ全長60kmの「瀬戸内しまなみ街道」で結ばれる。魅力溢れる両県のうち、今回は、今年4月発刊の『ミシュランガイド広島・愛媛 2018 特別版』で、四国の中で初のセレクションを発表した愛媛県をご紹介する。(2018年6月取材)

砥部の豊かな自然の中に佇む 水辺の桃源郷

道後温泉などがある松山市街地から約10km南。国道を曲がり、坂道を少し上がると、青々とした木立に囲まれた山道に鳥のさえずりが響き出す。わずか数分登った目の前には湖とも見紛う美しく大きな池が広がり「TOBEオーベルジュリゾート」のサインが見える。レセプションに到着すると、池の周りに溢れんばかりの新緑が出迎える。

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鳥のさえずりや虫の声、静寂に満ちた夜のひとときなど、朝夕に異なる水辺や森の情景を四季折々に楽しめる。施設間の移動はゴルフカートの送迎サービスがある。

2011年にオープンした「TOBEオーベルジュリゾート」は、通谷池(とおりたにいけ)を囲む約2万平米の土地に、レセプションやレストラン、ウェディング会場などが一体となるメイン施設。池の反対側にはヴィラ、スイート、離れのタイプに分かれる全10室の客室棟が立つ。客室には木材を基調とした温かみのある家具やインテリアで統一され、どの部屋からも窓一面に広がる水辺の景色を一望できる。

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写真左:ウッドデッキのバルコニーからの眺めは、美しい水辺の風景。リクライニング式のデッキチェアも寛げる。写真右:自然を満喫する、客室露天風呂
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客室は常に満室にせず、滞在中、宿泊客がプライベート空間を保ちながら過ごせるように配慮されている。

「元々ここは、江戸時代から農業用の溜め池として使われていました。たまたま私が仕事でこの砥部町を訪れ散策していた時に迷い込んだんです。丁度今のような新緑の時期でしたが、ここの自然の美しさに見惚れてしまいました。そして、その時にピンと来たんです。『これはオーベルジュだ!』と。以来、ずっと今の形を夢見てきたんです。」とオーナーの越智仁文氏が懐かしそうに語る。

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各部屋の備品にも砥部焼が使われている。

空間・食材・人。“オール愛媛”で叶えたこだわりのオーベルジュ

23年前、東京でミュージシャンの夢をあきらめ、愛媛でイベントやブライダルの事業を手がけていた越智氏。地元愛媛で出逢った第二の夢、この場所に描いたオーベルジュの夢を叶えるべく、仕事の傍ら日本各地を泊まり歩き、客の目線で構想を練った。

「当時、日本各地を巡り、こだわりはあっても土地の魅力をしっかりと伝えられているところが少ないと感じました。この施設では、建築家、家具・照明デザイナーなど、すべて愛媛のアーティストによって作られています。食事ももちろん、このオーベルジュを構成するすべてで、愛媛を感じてもらうことをコンセプトにしています。」

レストランの食材にも徹底し、愛媛以外のものは使わない。もちろん、働く従業員も全員が愛媛出身者。この土地を良く知る従業員たちが、ここ愛媛・砥部町の魅力を発信している。

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砥部はアートの町として、多くのアーティストが集まる土地。ここでは多彩なアーティストの作品を集め宿泊者へ紹介しているという。

ホテル業の経験も無い中、手探りで構想を進めること約15年。何か使命に導かれたかのように、構想は自然と現実になっていったという。

「この場所は農業振興地域でもあり、地権者も大勢いたためなかなか開拓が難しい場所でした。一人ひとりに自分の想いを伝え、説得するのに10年以上かかりました。今ではみんな応援してくれるようになって、農家さんもいますから食材を持ってきてくれたり、うちの菜園を面倒みてくれるような間柄です。そんな地元の人たちの想いも大切にしていきたいです。」

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その昔、池の周りに桜と楓を交互に植えたというだけあり、四季折々に美しいこの場所。中でも桜の風景は特に見事で、毎年その時期にリピートする常連客も多いのだとか。

「TOBEオーベルジュリゾート」を訪れたなら、豊かな自然に溶け込んだ非日常の中に、地元の温もり溢れる手仕事やそのストーリーに、ぜひ想いを馳せてみて欲しい。そしてなるべくノープランで過ごしたい。水辺を歩き、たっぷりと空気を吸う。食事を楽しみ、ゆっくりと眠る。ただそれだけで、愛媛・砥部町の魅力を存分に味わうことができる。

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客室はもちろん、カウンターが中心のレストランからも水辺と桜を満喫できる。ランチ、ディナーのみの利用も可能。

心落ち着ける松山の夜。創意工夫に満ちた日本料理「草庵 田なか」

旅の初日や観光後、おいしい料理はもちろん、ほっと一息つける場所を探したい。そんな時に打ってつけなのが「草庵 田なか」である。松山市内を走る路面電車の大街道駅の程近く、松山市駅からも歩いて約15分、夕暮れの通りに優しく看板が灯る。「草庵 田なか」は2011年、茶道の先生の自宅であったという古民家を改装して作られた日本料理店である。

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一歩足を踏み入れると、昔ながらの情緒溢れる雰囲気に、どこか懐かしさを覚え緊張がほぐれる。7席ほどの白木のカウンター越しには、軽快に料理を振舞う店主 田中法行氏が、人懐こい関西弁で出迎える。

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写真左:2~5人までのテーブル席。 写真右:2階には8名までの個室(個室を2名で使用する場合のみサービス料10%に加えチャージ料10%)

明石出身である田中氏は44歳。下積み時代は明石市の料理旅館など、関西を中心に経験を積み、現在の松山に辿り着いたのは17年前。

「地元も関西なので、もっと他の地で経験をして料理人の幅を広げたかったんです。日本各地で経験を積もうと思っていたんですが、独立意識が芽生えた頃から、この松山に居ついてしまいました。」

良い意味でも“よそ者”である田中氏にとって、この松山の土地は食材の宝庫なのだという。

「ここは、魚はもちろんお肉、野菜、果物すべてがいいんです。正直、こっちに来てから愛媛の食材の魅力に気づいたんですが、こんなに良い場所はなかなか無いと思ってます。」

瀬戸内海、宇和海に面した愛媛県。降水量が少なく温暖な気候のため、多くの農産物にも恵まれる。「草庵 田なか」では、魚は今治市の定置網漁師、野菜・果物は宇和町、三間町の他、全国の良いものを仕入れる。米は山形や新潟産に加え、棚田の風景で有名な愛媛県の井内地区で採れたコシヒカリを使う。

魚は熟成して個性を引き出す

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新鮮な地元野菜は、火入れを工夫することで香りや甘みが強く引き出されている。

焼物は、7日間熟成させた太刀魚。下に湯葉が敷かれ、素揚げした旬の野菜が添えられる。丁寧に網代に編んだ太刀魚の身は、しなやかに美しく、身はふんわりと白味噌がほのかに香り立つ。素揚げしたヤングコーンにインゲン、ゴボウに白和えを合わせていただくと食感のアクセントが楽しめる。

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太刀魚は途中、白味噌に二日間漬け、その後床上げして熟成を続ける。

「熟成は独学しながら、いろんなお店に出向き学ばせてもらいました。それぞれの食材がなぜおいしくなるのか、どのくらいの時間寝かせ、どこに包丁を入れるとおいしくなるのか、常に考え意識しています。」寝かせる期間や水分・温度管理など、個々の状態を常に見極めることでその魚本来の個性が引き立つのだそう。

食材の最高の瞬間を見極める

お造りとして登場したのは、金目鯛と文旦に、トマトのジュレをかけた一品。チャービルが添えられ、色鮮やかな盛り付けに食欲がそそられる。お造りに想像していたそれとは見事に裏切られたが、これが田中流なのだとか。

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金目鯛は醤油でかすかに香り付けされている。

「基本は大切にしますが、うちでしか食べられない料理、“タナカキュイジーヌ”とでも言うんでしょうか。そういうのを意識しています。お客さんもそれを求めて来てくださる方が多いですからね。」と、陽気な会話を繰り広げながらも、その手が休むことはない。

愛媛で獲れた金目鯛は6日間熟成することで、磯の香りやうまみが増し、トマトの酸みともまろやかに調和する。その金目鯛を引き立てながら、華やかな甘みと香りを放つのが高知産の文旦である。

「文旦の旬はもう終わっているんですが、うちでは仕入れてから完全に熟して酸が抜けるまで追熟させます。柑橘は追熟をかけることで味が凝縮するんです。」それぞれの食材が最高においしい瞬間を見極めるのだ。

コースはペアリングでも楽しめる。ソムリエときき酒師の資格を持つ女将のしおりさんが、個性豊かな田中氏の料理にぴったりなお酒を選んでくれる。日本酒の他、ワインは国産のものを多く揃えるという。

大将渾身の釜炊きご飯

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伊賀の土鍋で炊いたご飯は一組ごとにタイミングを見て炊き上げる

この店のスペシャリテとして、田中氏が最も力を入れるのは、締めのご飯である。それぞれの客のタイミングを計算し、一組ごとに釜炊きする。最初は煮えばなの状態で一膳。釜を開けるとその甘く芳しい香りが充満する。次によく蒸らされた状態の二膳目で、味わいの違いを楽しむ。歯ごたえもしっかりと感じる一膳目は、甘みが強く、噛むごとに一層その甘みが増していく。ふっくらと弾力のある二膳目は、ご飯のお供と一緒に。素材のおいしさを追求する田中氏の、直球勝負とも言える締めくくりだ。

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味噌汁は麦味噌を少し加えた海苔の赤出汁。じゃこ、自家製の糠漬けが並ぶ。

「食材を生かすこと、使い切ることにこだわります。肝や内臓など、普通は捨ててしまうところも、煮こごりとして八寸に盛り込んだり、魚の骨や野菜の皮でだしをとったりもします」。田中氏の料理一つひとつに、食材への敬愛にも満ちた想いが伝わってくる。

「草庵 田なか」は、2018年12月いっぱい営業し、2019年1月から春頃まで改装期間に入る。趣ある店の雰囲気を残しつつ、調理場や店内の機能面を中心に刷新する予定だ。愛媛の旅路、お腹も心も満たす、とっておきの一夜を過ごしていただきたい。

広島・愛媛旅の前編:「広島に新たな二つ星旅館「旅籠 桜」初夏の広島・愛媛旅(前編)」

撮影・取材/クラブミシュラン 庄司 朋可(ぐるなび)

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