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ぐるなび

わざわざ出かけたい国内グルメ旅

2018.12.13

「バスク料理は引き算が基本。だからこそごまかしが効きません」

アラルデ オーナーシェフ 山本嘉嗣

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2018年10月、『ミシュランガイド京都・大阪+鳥取 2019』のセレクションが発表された。今回大阪では34軒、京都は39軒の新規掲載店が追加され、初のセレクションを発表した鳥取では、76軒が掲載された。その中でも一つ星として新たに登場した大阪のバスク料理店「アラルデ」をご紹介する。

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オーナーシェフの山本嘉嗣氏は、『ミシュランガイドスペイン・ポルトガル 2019』で一つ星として掲載されたスペイン・バスク州のレストラン「アラメダ」で修業後、大阪・本町のバスク料理レストランの料理長として、まだ関西では馴染みのなかったバスクの郷土料理を提供してきた。2016年に独立し「アラルデ」をオープン。自身の店では、余分なモノをさらにそぎ落とし、素材と向き合い、素朴で奥深いバスク料理を突き詰めている。

バスク料理をもっと知ってほしいという想い

ピレネー山脈をはさみ、スペインとフランスにまたがる国境地域であるバスク。そこに住む人々は独自の言語を持ち、ヨーロッパの他の地域とは異なる独特な文化を育んできた。海と山の幸に恵まれ、美食の街としても世界的に知られているバスク地方。炭火焼きをはじめ、素材を最大限に活かす素朴な調理法により、優しい味わいが特徴だ。

「『バスク料理ってなに?』と、思っている方がまだまだ多いので、そういう方々には実際に食べてもらいたいです。2回、3回、来てもらえればその魅力をわかってもらえると思います。」と、山本氏。何度も通ってほしいという想いから、8品7,500円と、品数に対しコースの価格も抑えめに設定されている。

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席数はカウンター8席、テーブル7席の計15席。

店内はテーブル席もあるが、ライブ感溢れるカウンター席がメイン。「店というより我が家のダイニングに来てもらっている感じです。僕が目の前で料理を作り、お客さんとおしゃべりをしながら提供したいんです」。カウンターに座れば、料理風景を眺めながら話を聞き、気さくな温かいバスクの雰囲気を体感できる。

名物の炭火焼きは豪快かつ緻密な火入れ

寒い時期にはバスクの冬の定番、『プルサルダ』(ポロ葱とじゃがいものポタージュスープ)が登場するなど、コースには素朴な伝統料理を織り交ぜる。メインの魚と肉は東大阪の鉄工場に特注したというアサドール(フタ付きの窯)を使い、バスク名物の炭火焼きで提供される。

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この日の魚は、長崎でとれたホウセキハタ。魚に味をしみ込ませるため、マリネしてから焼く調理法もあるが、それでは水分が飛んでパサつきやすくなるので、こちらでは、柑橘果汁やビネガー、オリーブオイルをブレンドしたスプレーをかけながら焼いている。

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火加減や置き位置など、計算された火入れで身はふっくら。皮目は直火であぶることで、パリッと香ばしく、皮の下のゼラチン質もうまみがたっぷりと凝縮されている。

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そして、この日の肉は、徳島県産阿波黒牛のランプ。炭の上に薪を置き、薪の薫香を調整しながら焼き上げることで、薪の香りがきつくなりすぎず、20日間熟成をかけた牛肉のナッツ系の香りと共にほのかに鼻をくすぐる。

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焼き上がった塊肉をカットする場合、縦に庖丁を入れるのが一般的だが、こちらではまな板と平行に横から庖丁を入れ、上下2段に切り分けるのも印象的だ。そのため、塊肉の中心部が断面に現れ、ロゼ色に。豚肉の場合も同じカットで提供されるが、舌や口の中にしっとり柔らかくロゼ色に火が通った中心部が触れ、とろけるような口当たりを堪能できる。

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伝統的な料理に見え隠れする遊び心やオリジナリティ

バスク料理の軸はしっかり守りつつ、日本ならではの素材を取り入れ、オリジナリティを盛り込む山本氏。『チャングロ(カニ)のドノスティア風』と名付けられたカニのグラタンは、特にシェフの遊び心を感じる一品だ。

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紅ズワイガニの身をほぐし、刻んだポロ葱やニンジン、トマトピューレと炒め合わせ、ニンニクフリットやパン粉をのせてオーブンで焼き上げる。現地では焼く前にシェリーとブランデーをたっぷりかけるこの一品。しかし「アラルデ」では、シェリーとブランデーをブレンドしたスプレーを用意し、料理を提供した後、カウンター越しに客の口へ直接スプレーする。「口をあけてください」と言う山本氏に、戸惑う客の口へシェフ自らが一吹き。「この方が、酒の香りが口いっぱいに広がり、グラタンを食べた時との調和もいい。お客さんがひな鳥みたいに口をあけている光景も楽しくて」と、いたずらっ子のように笑う山本氏。こんなやりとりが、客との距離を縮める秘策でもあるようだ。

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和食の世界を飛び出し、アルゼンチンを経てバスクへ

「アラルデ」の魅力は、バスク料理に加え、山本氏の人柄にもあるようだ。現在アルバイトも雇わず、シェフ一人で店を切り盛りする山本氏。店ではカウンター越しの会話を楽しみに訪れる客も多いのだとか。

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バスク料理にいきついた経歴も興味深い。板前だった父親の影響で、和食の料理人としてスタートした。しかし、その父が亡くなり、和食を続けていく気持ちも失速してしまったという当時、現実逃避のようにブエノスアイレスのレストランで働くことを決意した。

「アルゼンチンにいた頃に、薪や炭の扱い方を徹底的に仕込まれたのは今も役に立っています」と振り返る。そして、働きだして3年が過ぎた頃、南米の炭火焼きのルーツであるバスクに行きたいという想いが強くなり、チャンスにも恵まれた。『ミシュランガイドスペイン・ポルトガル 2019』で一つ星として掲載されたスペイン・バスク州のレストラン「アラメダ」で働く機会を得たのだ。

3年後、ビザの関係で日本へ一時帰国し、すぐにバスクへ戻るつもりがビザがおりず、泣く泣く日本に残ることになったのだそう。とは言え、現在も「アラメダ」とは親交が深く、年に1度は必ず訪れているという。

シェフはバスクの有名人!10年後には帰郷を決意

山本氏は今年、バスクのビールメーカーのCMに登場し、現地ではちょっとした有名人だ。そのCMがかなりの頻度で放映されているため、バスクの街を歩くと、必ず声をかけられるのだそう。さらに今年10月、『ミシュランガイド京都・大阪+鳥取 2019』で一つ星として掲載された際には、ビールメーカーから特別バージョンのCMまで作られ、街をあげて祝福を受けたという。来年2019年2月には、古巣の「アラメダ」で、山本氏による凱旋ディナーイベントも開催される予定だ。

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バスクへ訪れることを“行く”ではなく、”帰る”と表現する山本氏。現在42歳、「50歳までにはバスクに戻りたい」と宣言する。「アラルデ」に行けば料理はもちろん、日本では馴染みの少ないバスクの魅力を存分に味わうことができる。そして、溢れんばかりのシェフのバスク愛に触れ、いつしかバスクへの旅に思いを馳せることだろう。

取材・文/天野 準子、撮影/エディ オオムラ

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