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ぐるなび

東京都内の“おいしい”探訪記

2019.1.10

「常に進化し続けるように努力しています。いかなる時も最良を追求し、よりよい料理を生み出し、お客さまに喜んでいただきたいと思っています」

ロオジエ エグゼクティブシェフ オリヴィエ・シェニョン

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2018年11月、『ミシュランガイド東京 2019』が発表され、73店の新規掲載店が加わり、全484店(三つ星13店、二つ星52店、一つ星165店、ビブグルマン254店)のレストランが掲載された。

今回も、世界のミシュランガイドを発行する都市の中で、最も多くの星付き店が掲載された東京。中でも、日本におけるフランス料理のレベルは高く、クラシックからモダンフレンチ、分子調理を取り入れる革新的なフレンチなど、東京にはきら星のごとく多くのフランス料理店が存在し、今回『ミシュランガイド東京 2019』においても88のフランス料理店が掲載された。

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これらの店に大きな影響を与えてきたフランス料理店のひとつとして、今回三つ星として掲載された「ロオジエ(L'Osier)」を挙げることに異論はないだろう。ロオジエは、日本の化粧品メーカーである資生堂が経営し、食を通じて、企業理念である「美しい生活文化の創造」を実現するために生まれた空間だ。銀座の街のシンボルとして、2018年に45周年を迎えたロオジエ。その歴史を振り返りたい。

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世界のホテルやレストランを手掛けるデザイナー、ピエール=イヴ・ロション氏による空間デザイン。

1973年、仏語で「柳」=「l'osier」を意味するロオジエは、銀座の資生堂パーラービル(銀座8丁目)にオープン。より本格的なフランス料理店を目指し、1986年には、「M.O.F.(フランス国家最優秀料理人賞)」保持者であるジャック・ボリー氏をシェフとして迎え、1999年には並木通りに面した資生堂本社ビルに移転。アールデコスタイルのインテリアを携え、パリの雰囲気を肌身で感じられるレストランとなった。2005年にブルーノ・メナール氏がシェフに就任してからは、フランス料理の伝統を守りながらも時代の進化を取り入れる「ネオ・クラシック」のスタイルを標榜し、東京で初となるセレクション『ミシュランガイド東京 2008』では三つ星として掲載された。

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そして、2年半の改築休業を経た2013年、資生堂銀座ビルのオープンとともに、現在のオリヴィエ・シェニョン氏がシェフを務める新生ロオジエが誕生。『ミシュランガイド東京 2015』から4年間二つ星として掲載され、今回発刊行された『ミシュランガイド東京 2019』では三つ星に昇格した。

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充実したアートコレクションも店内に彩りをそえる。(左:サルバドール・ダリ 作/右:アクセル・カッセル 作)

シェニョン氏は、18歳の時にアプロンティシェフ(ジュニアシェフ)コンクールのフランス大会で優勝、さらにはヨーロッパ大会で準優勝。フランスの「タイユヴァン」「ピエール・ガニェ―ル」パリ本店など、名門店で経験を積んだ後、2005年に来日し、27歳で「ピエール・ガニェール・ア・東京」の総料理長を務めた人物だ。

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数々の成功を収めてきた物静かなシェニョン氏だが、今回、三つ星として掲載されたことについて、喜びを表現している。

「お客さまに満足いただけることだけを考えて邁進してきた結果、三つ星という評価をいただきました。本当に幸せです。改装休業後、リニューアルオープン5周年を迎えたこの年に、スタッフ全員のこれまでの努力が実りました」

シェニョン氏の料理およびその哲学とは一体どのようなものなのだろうか。

「フランス料理の味をとても大切にしています。日本の食材は使いますが、だしや醤油、ワサビや柚子胡椒など、日本の味を入れないようにしています。ロオジエはフランス料理店であり、シェフの私もフランス人です。そして何よりも、お客さまが本格的なフランス料理を望んでいるからです」

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最大10名で利用できる個室。(使用料:ランチ10,800円/ディナー21,600円)

フランスでのトレンドを引き合いに、次のようにも述べる。

「今フランスでは日本ブームとなっており、多くのフランス料理店が日本の味を取り入れています。日本の味は、フランス人にとって新鮮で面白いと感じられるかもしれません。しかし、日本人にとって、日本の味をフランス料理の中には求めていないと思います。そのため、私はロオジエではフランスの味を大切にした料理を作るようにしています」

日本の味を取り入れることはないシェニョン氏だが、日本の食材には非常にこだわりを持つ。

「甘鯛、鮑、赤貝、クエ、あか牛など、日本には質の高い食材がたくさんあります。時間を見つけては全国を訪れ、新しい食材を探しています。先日、熊本県の阿蘇に足を運びました。あか牛は脂があまりなく、赤身がおいしいので、フランス料理によく合います。毛ガニを求めて北海道の紋別にも訪れましたが、生まれて初めて流氷も見ました。この前は鳥取県に足を運び、卵やブロッコリー、蕪といった素晴らしい食材があることを知りました」

日本全国から良質な食材を探し求めるシェニョン氏。今回は、取材時2018年11月のディナーコース(22,000円 税込・サービス料12%別、以下同)から料理をいくつか紹介したい。

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北海道産毛ガニと蕪のフイユ ヘーゼルナッツオイルで香りをつけた“クーリィ・ヴェール” クルスタッセのジュとカリフラワーのムースリーヌ トピナンブールのジュレ 蕪のアイスクリーム ライム風味

前菜には、北海道産のメスの毛ガニと蕪を合わせた旬の一皿。蟹や海老のうまみが凝縮されたクルスタッセ(甲殻類)のジュ(エキス)が深みを与える。蕪のアイスクリームの軽やかさとライムゼスト(柑橘類の外皮)の爽やかさが、後味をさっぱりとさせ、次の皿へとスムーズに誘う。

草木をイメージしたプレゼンテーションで、蕪の葉のグリーンが鮮やかなソースのまわりに、花が咲く情景を思い浮かばせる。

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蝦夷鹿とジュニエーブルのココット焼き ブレゼしたエポールのカネロニ トリュフ入りサボイキャベツ アルガンオイル香るカリソン(セロリ/キャロット/コリアンダー) ソースポワブラード

蝦夷鹿の味わいを余すところなく体験できるメインディッシュ。フィレ肉は非常に柔らかく、鹿肉の力強さと繊細さが感じられる。下に敷かれたチリメンキャベツのアンブーレ(下茹でした食材をバターで炒めてから蒸し煮する調理法)は、バターの香りが豊かで、鹿肉との相性も素晴らしい。ジェニパーベリーの香りが心地よいアクセントになっている。肩肉はフォアグラやキノコと一緒にクロロフィル(葉緑素)のパスタで包み込み、豊かな味わいに仕上げている。

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ショコラのヴァリエーション 様々な味と食感で

全てチョコレートで作り上げられたアシェットデセール(皿盛りデザート)。グラスショコラやソルベショコラ、シャンティーショコラ(チョコレートのホイップクリーム)、寒天のショコラにサブレ ショコラと、同じチョコレートでも様々な味わいや食感を表現している。

「季節の食材からインスピレーションを得ています。一皿の中でコンビネーションを考える時には、テクスチャを重視していますね。様々なテクスチャを用いながら、季節の食材を組み合わせて使います。そして、味の調和を大切にしています。一皿の中での組み合わせも大切ですが、アミューズ、前菜、メインディッシュ、デザートと、コースを通して始めから終わりまでの流れも大切です」

アートのように美しく意外性を取り入れながら、緻密なバランスで構成される料理の数々。そんなシェニョン氏の料理に対峙する姿勢は、実に真面目である。

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「常に進化し続けるように努力しています。いかなる時も最良を追求し、よりよい料理を生み出し、お客さまに喜んでいただけるようにしたいです。ミシュランガイドの星は価値がありますが、お客さまのために料理を作っているということを決して忘れてはなりません」

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さらなる進化を目指すシェニョン氏に対し、将来の展望を訊いたところ、心が踊るような答えが返った。

「夢は、フランスでロオジエをオープンすることです。希望をいえばロオジエの50周年である2023年にオープンさせたいですが、さすがにそれは間に合いそうもありません。2033年であれば現実的かもしれませんね」

日本の資生堂がかつて世界の資生堂となったように、同社が手掛ける日本の「ロオジエ」が、フランスであらたな幕を開ける日も近いのかもしれない。本場フランスの伝統と技を凝縮したフランス料理を体験できる場所として、この場所はこれからも貴重な存在であり続けるだろう。

取材・文/グルメジャーナリスト 東龍 撮影/庄司朋可(ぐるなび)

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