特集

ぐるなび

わざわざ出かけたい国内グルメ旅

2019.1.28

「茶道の基本に習い、一期一会のおもてなしに努めています」

未在 店主 石原仁司

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2018年10月、『ミシュランガイド京都・大阪+鳥取 2019』のセレクションが発表され、京都では7軒が三つ星として掲載された。今回は、『ミシュランガイド関西 2014』以来、6年にわたり三つ星として掲載されている京都の日本料理「未在」をご紹介する。

写真

円山公園(京都市東山区)の瓢箪(ひょうたん)池そばに店を構えて14年。店主 石原仁司氏が作り出す世界観は、訪れた者を魅了し、現在カウンター席の予約は2年先まで埋まっている。

茶懐石をベースに華のあるコースでおもてなし

料理は40,000円(サービス料なし・税別、以下同)のコース1種類のみ。特選素材をふんだんに盛り込み、器選びや盛りつけにもこだわる石原氏流の茶懐石が楽しめる。

写真

コースの始まりは、茶席に習い、左に飯、右に汁、奥に向付を配した折敷で供される。飯はお米からご飯にかわった瞬間の煮えばなを味わえる。取材時の11月は、口切りの茶事が行われる茶人の正月ともいわれ、この日の椀は白味噌仕立て。魔除けの小豆が入れられている。

写真
向付は柿なます。椀は蓮根餅の白味噌仕立て。小皿にはクロカワ茸のうま煮がのせられる。

次に登場するお造りは、二人分をダイナミックに。大間のマグロとヨコワ(メジマグロ)を食べ比べるほか、対馬の剣先イカや明石の鯛、能登のブリなど5種類。マグロは、昆布と醤油の煮こごりを巻いていただくことで、醤油で味が一辺倒にならずに、マグロのうまみが際立つ。ほかにも、辛味大根やちり酢、塩など、調味料や薬味にも工夫をほどこし、最後まで飽きることなくいただける。

写真
二人用のお造り。取り分け皿も乾山写しの竜田川で秋らしく。

煮物椀に続き、焼き物は奥出雲の黒毛和牛をあぶりで。お造りのボリュームがかなり多いので、魚ではなく肉を出しているそう。

写真
煮物椀はうずらのつくねと松茸。11月は茶人にとっては正月であり、焼き餅を合わせてお雑煮仕立てで供される。

箸休めをはさみ、続く八寸も二人分を優美に盛り合わせ、四季や二十四節気を映す豪華な演出に。11月の八寸では、柿の蓋ものに笑い栗と海老の蓑揚げ、カボスの器に雲子やすっぽんの煮こごり、菊の器にあん肝。ほかにも鴨ロースの洋酒煮、鯛のかぶら寿司、金太郎鰯ともずくなど、秋の山海の幸を少しずつ楽しめ、盃も進む。

写真

続いて炊き合わせ、強肴の後に土鍋ごはん。最後は、おこげにお湯を入れて、こがし湯でしめるなど、華やかな料理もあれば、侘びを感じる料理もあり、抑揚の付け方もすばらしい。

また、魯山人や樂家代々の作品など、選び抜かれた歴史ある器でもてなされる。例えば、秋の向付の器に使われているのは13代目樂惺入(らく せいにゅう)作の青樂割山椒。割山椒とは秋になり、実山椒がはじけた形を表した器であり、歳時も大切にされている。

写真

食後もさらにお楽しみが続き、まずは、中茶(薄茶と濃茶の中間の濃さに点てた一杯)と自家製菓子を。秋には、栗を和三盆で炊いた渋皮煮が登場するなど、素材を引き立てる和菓子が楽しめる。続いて、30種類以上の果実を使ったゼリー寄せが供され、さらにもう一品デザートが続く。食後の菓子3品を含め、全11品。「未在」は品数やボリュームが多いことでも知られ、コースの途中にお店の方から「お腹に合わせて調節してください」と言われるほど。最後までたどりつけない方も多いので、お腹を空かせていくことをおすすめしたい。

茶事に招かれたような心地の良い緊張感に包まれて

茶懐石をベースにしたコースを出す店は少なくないが、料理だけでなく、しつらえやもてなしにまでも茶道の心を色濃く映す「未在」。

写真

「露地に清めの打ち水をしておく。軸を掛けかえ、花をいけ、お香を焚き、客を迎える。茶事のもてなしに習っているだけです」と語る石原氏。茶事では茶席に入る前に腰掛待合で白湯や香煎など、汲み出しをいただだき、心を整えるのだが、こちらでも開店の30分前に門が開き、客人は露地の腰掛に腰をおろし、香煎をいただける。

写真

また、食事の始まりに折敷が出された際、石原氏自らがお酒をついでくれるのだが、その姿は、茶会で亭主が客についでまわる光景を彷彿させる。食後には、八坂神社のご神水で石原氏が茶を点てる姿も同じく、茶室で亭主が茶を点てる様子を見ているような感覚に包まれる。食事が18時の一斉スタートと言うのも、お茶事に沿ったもてなしをしたいからこそ。いわば石原氏が亭主で、カウンターに座る14人は、茶会に同席した客となり、一体感を演出している。

写真

ホームページの案内にも、「茶懐石の心を通じた『一座建立』のより良きひとときのためにはお客同士の相互の思いやりやマナーもとても大事でございます」と明記され、スマートカジュアルのドレスコードが設けられ、食事中の撮影も禁止されている。「写真を撮ることにとらわれないで、その場でしか味わえない空気を楽しみ、もっと大事なことに気づいてほしいです」。

写真
最大6名で利用できる個室。個室料35,000円(消費税別)

吉兆グループの創始者でもある故・湯木貞一氏に師事し、その後、日本料理「吉兆 嵐山本店」総料理長を経て、2004年に「未在」を開いた石原氏。「未在」とは禅語で限りがないという意味であり、石原氏が修業時代より心に刻んでいる二文字だそう。「これで良いという限りはなく、常に無限であると戒め、お客様に満足してもらうため必死にやってきました。茶事のしきたりと心をもてなしに取り入れ、一座建立の茶席の空気を映し出していきたいです」。

料理の味は言わずもがな、「未在」では、日本の食文化や茶道の心に触れられる。和食の料理人が勉強に訪れることも多く、客として訪れる際にも五感をとぎすまし、学びたいという心構えを持てば、さらにその世界観を堪能できる場所と言える。

取材・文/天野 準子、撮影/福森 クニヒロ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

取材した施設

  • レストラン日本料理 未在

    京都市東山区円山町 613

  • もっと見る

あわせて読みたい関連記事

    もっと見る

    特集まとめ