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ぐるなび

わざわざ出かけたい国内グルメ旅

2019.7.18

「1300度の炭火と串を操る『焼き』は、私の一生をかけるべき仕事です」

うなぎ家 しば福や 店主 柴田哲滝

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「三河一色うなぎ」は、言わずと知れた養殖うなぎのトップブランド。その産地を有する愛知県は、うなぎ屋の数がとにかく多い。すなわち激戦区であり、腕を競い合う職人たちのレベルも自ずと高まる。この環境下にあって、2018年5月に開業した「しば福や」は、東海地区初出版となる『ミシュランガイド愛知・岐阜・三重 2019 特別版』にビブグルマンとして掲載された。

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店主の柴田哲滝氏は「三河一色うなぎ」の里、愛知県西尾市一色町出身。父親が宮崎県で養鰻業を始めるにあたり、柴田氏も物心つく前に移住した。日々うなぎと対峙する父の背中を見ながらも、家業を継ぐイメージは湧かず、大学卒業後に就いた職は大手ゼネコンの現場監督。しかし入社7~8年が経ち、仕事に違和感を感じたとき、ふと脳裏をよぎったのはうなぎの存在だったと言う。サラリーマン生活に別れを告げて柴田氏が向かった先は、父のもとではなく名古屋市昭和区にあるうなぎ屋「炭焼 うな富士」。週末ともなれば、店前に「うな富士行列」が成される大繁盛店を修業先に選んだ。

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うなぎを身近に感じて育ったとは言え、職人としてはゼロからのスタート。毎日が戦場のような調理場で、関西風の「地焼き」(うなぎを腹側からさばき、蒸す工程を経ずにそのまま炭火で焼く焼き方)の技術を会得し、大将に次ぐ二番手にまで成長した。

入門して15年が経った頃、柴田氏の胸にはある構想が膨らみ始めたという。「江戸時代のうなぎ屋や蕎麦屋は、居酒屋使いができる庶民たちの社交場だったと聞きます。うなぎ屋の原点に立ち戻って、そういう店を作りたいと思いました」。理想を追い求めるにはまず独立と、場所を探していたところ打って付けの一軒家に巡り合った。

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名古屋市西区那古野の四間道(しけみち)界隈は、先の戦災を免れて江戸情緒を今に残す地域。江戸から大正にかけて築かれた家屋が多数残っており、その佇まいを生かした飲食店が近年次々とオープンする注目のエリアだ。その角地にある、大正時代に建てられた民家に一目惚れした柴田氏は、早速リノベーションを施し「しば福や」の屋号で第三の人生をスタートさせた。

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昼のオープンを目前に控え、調理場は炭の火入れとともに活気付く。柴田氏は、さばいた活きうなぎを次々と串打ち。何気なく行っているように見えるが、実は個体差を見極めて選り分け、同じサイズに揃えて打っている。「サイズ指定して仕入れても、厚みや脂の乗り方は千差万別。同じ串で打つうなぎに個体差があると、どうしても焼きムラができるんです。だから串打ち技術も焼きの内ですね」と、スイートスポットを確実に押さえて串を打ち、3~4尾のうなぎを一つにまとめあげる。

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くべた炭が赤々と透き通るように熱を蓄えたら、焼きの準備完了。1300度の熱を容赦無く放つ炭に顔を炙られながら、縦横無尽に串を操り始める。「うなぎに個体差があろうが、炭の状態が前後左右で違おうが、一尾一尾を最良のクオリティでご提供するのがプロの仕事。『焼きは一生』だと、この世界に入って17年経った今、しみじみと感じます」と、絶えず両手を動かす柴田氏。「串打ち三年、割き八年、焼き一生」と言われるが、「会心の焼き」は、正確な串打ちと割きの賜物であり、全てが揃って初めて得られると、一連の仕事が物語っている。

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「しば福や」のうなぎは、他の店と比較して明らかにサイズ感が異なる。聞けば3尾で1キログラムに相当する「3Pサイズ」をレギュラーで使っているという。平均的な大きさが約200グラムなのに対し、330グラム以上というだけでも驚きに値するが、さらに上をいく「大福うなぎ」なるものを名物に掲げている。大福うなぎは、柴田氏が名付けた愛称で、目方はなんと500グラム以上。出物があった時だけ特別なルートで仕入れているそうだ。さばいた姿を見ると、3Pサイズをも凌駕する存在感。一尾丸ごと長焼きや白焼き、あるいはハーフ&ハーフでもオーダーできる。ただし半身が通常の一尾分あるため、二人以上で頼むのがおすすめだ。

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1尾500グラム以上ある「大福うなぎ」。「大きなうなぎを食べて大きな福を持ち帰ってほしい」との思いから柴田氏が命名。大きさを生かし、白焼きと長焼きのハーフ&ハーフで楽しむこともできる。「大福うなぎ」単品は4,300円(税別、以下同)、ご飯・吸い物・香の物がセットになった「大福うなぎ膳」は5,000円

規格外の大きさゆえ、硬くて大味かと思いきや、適度に身が引き締まってうまみがあり、脂ののりも丁度いい。

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香ばしい皮と、遠赤外線で火入れをしたフワフワの身が醸し出す、地焼きならではのコントラストは、このサイズ感でも健在だ。関西では「半助(はんすけ)」と呼ばれる頭、そして肝も大皿の上で一堂に会し、大福うなぎの魅力を余すところなく楽しめる。

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味噌ソルト、ワサビ、ブラックペッパー、ミル挽き山椒など、薬味で変化をつけながらいただける。冷めても弾力が損なわれることなく脂のキレも良いので、お酒と共に時間をかけながら楽しみたい。

そして、名古屋でうなぎと言えば、真っ先に「ひつまぶし」を思い浮かべる方も多いだろう。その由来は、不揃いで客に出せない部分をお櫃にまとめ、従業員がまかないで食べたという説が有力だ。

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写真は名古屋名物「ひつまぶし」4,000円。1尾330グラム以上もある「3P」サイズのうなぎがお櫃を覆い尽くす。薬味やだしを加え、何通りもの楽しみ方ができるのが魅力だ

しかし「しば福や」のひつまぶしは、崩すのがもったいないほど整然としている。お櫃の蓋を開ければ、タレと炭の香りが立ち昇り食欲を刺激する。色合いから濃い味を連想させるタレは、大豆のみで醸したたまり醤油と三河のみりんをベースにし、思いの外さっぱりとした後味。うなぎを浸しては継ぎ足すことを繰り返し、オープンから1年経った今、順調な客足を表すように深みとコクが増している。

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軽くお茶碗に盛り、最初の1杯目はそのままで。2杯目はワサビや薬味を添えて。3杯目はだしを注いでお茶漬け風にいただくのがひつまぶしの楽しみ方。

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「しば福や」のひつまぶしは、うなぎのサイズに合わせて全体のボリュームも十分あるので、行きつ戻りつ、どの食べ方が自分好みか探るのもいい。

うな重やひつまぶしなど、スタンダードなメニュー以外にも、スタミナ丼をイメージした「スタミナまぶし」や「うなぎのたたきポン酢」など、他では見られないお品書きが名を連ねる。

「伝統を守りながらも、うなぎ料理の可能性を探り、お客さまに驚きのある味わいを提供していきたいですね。うなぎのスモークやアヒージョなど、酒肴も色々と揃えています。肴と酒を楽しみながら、うなぎが焼き上がるのを待つ……。そんな使い方をしていただけたら嬉しいです」と柴田氏。うなぎとの付き合いが長い彼ならではの、温故知新なメニューに今後も期待が高まる。

取材・文/露久保 瑞恵、撮影/庄司 朋可(ぐるなび)

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