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ぐるなび

わざわざ出かけたい国内グルメ旅

2019.8.29

「大切なのは咀嚼感。ネタと酢飯が混ざり合ったときにうまみが出て、おいしさが増していくことを意識しています」 

鮨 さかい 店主 堺大悟

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2019年7月、『ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎 2019 特別版』が発行された。福岡エリアに掲載されたレストラン287店のうち三つ星は2店、ともに寿司が掲載された。その2店のうち、今回新たに三つ星に加わったのが「鮨 さかい」だ。

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福岡で初めて発刊された『ミシュランガイド福岡・佐賀 2014 特別版』に一つ星として掲載されてから、今回二段階評価を上げた。大将の堺大悟氏は、福岡の老舗寿司店で3年間、東京 南青山の寿司店「海味」で7年修業を積み、2013年7月、34歳で福岡・赤坂に「鮨 さかい」を開業。2017年3月に現在の西中洲に移転した。

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オープン当初は奥様とふたり、おまかせ1万円のコースからスタートした。

「オープンしてしばらく経つと、1万円で最高のパフォーマンスを出すということに、どこか嘘があるように感じてきました。どれだけいいものをお出ししていても、そこには必ず“1万円で提供できる範囲で”という制限がついてしまうんです。『自分が本当に表現したいものを提供したい』という気持ちが強くなっていきました」

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価格を上げると、これまでの価格に価値を見出していた客が離れてしまうリスクもある。それでも、少しずつ自分が使いたい食材を仕入れ、表現したいカタチを実現していった。

「それは、一つひとつパーツを固めていくような作業でした。いいネタを仕入れるように努力しましたし、価格を上げるときには、お客様を半分なくす覚悟でしたが、お客様も変わらず支えてくださって。開業からしばらくすると、地元と県外からお越しになられるお客様が半々くらいになってきたので、博多駅や福岡空港へのアクセスがいいエリアへの移転を考えるようになり、現在の西中洲に移ってきたんです」

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メニューはおまかせのコース28,000円(税別)のみ。つまみ7〜8品、握り11貫程度が基本だ。食材は近海で獲れる魚介に加え、全国各地から空輸されてくる。

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毛ガニと北海道函館産のキタムラサキウニ、土佐酢のジュレ

「この時期にはここの産地のもの、というのはある程度頭の中にあります。その中で、釣ったのか、網で獲れたのかなどを考慮しながら、季節を追って仕入れています。また、数年に一度ですが、新しい食材との出会いもあります。自分の酢飯に合うかどうかが、仕入れる基準になっていますね」

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握りは、本格派の江戸前寿司。コース内容は、当日の仕入れによって変わるが、この日握りのメインは蛇腹のトロ、霜降り、赤身の漬けと、3種のマグロが登場。

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「うちの酢飯は、マグロに合わせています。口に含んだときの香りや食中のマリアージュ、食後の余韻など、味の変化を楽しんでもらいたい」と、話す堺氏。「マグロも、産地や季節によっていろいろあります。たとえば、夏は海水の温度が高くなり、乳酸が溜まりやすくなってしまう。また、まき網で獲れる魚は大暴れするので、酸味が強くなってしまいます。そのような背景からくる味の特徴もきちんとお伝えし、その時期に一番おいしく召し上がっていただける方法を考えるようにしています。冬のマグロのような濃厚な味わいを夏に求めるのではなく、夏だからこそ味わえるマグロを楽しんでいただきたいんです」。

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マグロのように、一年中手に入れることが可能なネタも、その季節のおいしさが引き出される。堺氏渾身の酢飯には、熟成と速醸の熟成期間が異なる2種類の赤酢をブレンドし、地元福岡の水で炊いた山形産の硬質米と混ぜ合わせる。

「大切にしているのは咀嚼感。ネタと酢飯が混ざり合ったときにうまみが出て、おいしさが増していくことを意識しています」

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堺氏が並々ならぬ思い入れを持つ酢飯。その存在感ある酢飯に合わせてネタの温度を操り、唯一無二の寿司を追求する。つまみや握りのおいしさは言わずもがな。堺氏がつくりだす店の空気感も「鮨 さかい」は特徴的だ。高級寿司店でありながらも特有の緊張感はなく、親しみを感じる絶妙な空気感が漂っている。

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取材時(7月中旬)は、江戸前寿司の風物詩的な存在である新子の季節。「新子は夏から冬にかけて、徐々に脂が乗っていきます。夏は香りを楽しんでいただくことを意識して仕込みをし、最初に口に含んだときに返ってくる風味を楽しんでいただけるよう、ピークを持っていくようにしています」と堺氏。この日は静岡の舞阪でとれたものを4枚づけで。6、7月頃は東京湾、8月になると佐賀や熊本(天草)のものと、産地も変えていく

「自分自身というよりは、チームで評価されたいという想いがあります。人を育てて独立させたり、プロデュースしたり。それに対して自分も負けないように努力しなければいけません。今回、三つ星をいただいたことで注目されることも増えると思いますが、それに恥じない人物になりたいと思っています」

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開業から1年で一つ星、5年後に三つ星として掲載されることは、並々ならぬ努力の賜物。決して奢ることなく、真摯に寿司と向き合う姿勢に、今後のさらなる進化を期待せずにはいられない。

取材・文/寺脇あゆ子 撮影/庄司朋可

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