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ぐるなび

わざわざ出かけたい国内グルメ旅

2019.11.21

「地元鷹峯の食材や、旬の厳選素材を生かす料理を心がけています」

おたぎ 店主 馬場一彰

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2019年10月、『ミシュランガイド京都・大阪 2020』のセレクションが発表された。今回は、『ミシュランガイド関西 2014』から『ミシュランガイド京都・大阪 2018』まで連続して一つ星として掲載され、今回新たに二つ星に掲載された、京都の日本料理「おたぎ」をご紹介する。

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2019年8月、京都市北大路から移転リニューアルをした「おたぎ」。新天地に選んだ場所は、北大路をさらに北上し、京都市街地の北端に位置する鷹峯。界隈には、光悦寺や源光庵といった名刹が点在し、かつて鯖街道の一つとして栄えた鷹峯街道沿いには、昔ながらの商家が軒を連ねている。

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移転リニューアルでコースも空間も一新

鷹峯街道から少し奥に入ると、美術館をイメージしたというシンプルで現代的な建物に迎えられる。エントランスまでのアプローチは長くスタイリッシュな空間で、非日常に誘われる。店内に一歩入ると、奥に向かってカウンター席が長くのび、その後ろは一面ガラス窓で、手入れの行き届いた庭が広がっている。

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テーブル席からも臨める庭。黒砂と緑のコントラストが美しい

カウンターの席数は以前と変わらず8席ながらゆったりとしたレイアウトで、カウンター前の厨房も広々と奥行きがある。カニを大胆にさばいたり、炭床で牛肉を焼いたり、以前にも増して調理パフォーマンスを楽しむことができる。

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無駄な装飾のない凜と美しい店内。カウンター席の奥にはテーブルも

開店時から、食材にこだわり徐々にコース内容をグレードアップさせてきた同店。工夫を凝らすことでパフォーマンスに磨きをかけ、人気を集めてきた。そして今回の移転を機に、さらに選りすぐりの食材を使い、特別感のあるコース内容として刷新。実は、店を始めた当初から「いずれは店舗を移転し、ステップアップしたいと考えていた」と話すのが、店主 馬場一彰氏。

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馬場氏は、祇園の老舗料亭で7年、和久傳グループで10年経験を積み、「高台寺 和久傳」では料理長を務めていたキャリアと実力の持ち主だ。

「年々、食材の価格が高騰していて、使いたい食材が使えなくなってきました。今回、コースの価格を変えたことで、かつての”かつぎ”(昔、海の遠い京都に新鮮な魚を中心に食材を運んだ行商人)の流れをくむ明石の魚屋さんから魚やブランド牛のヒレ肉、津居山のカニなど、これまで以上によい食材を運んでもらえるようになりました」

使える食材が増えたことで、料理の幅も広がり、創作意欲も増したのだとか。

伝統的かつ五感をくすぐるコース展開

月替わりコース(22,000円、税込み)は、全8、9品に水物、抹茶が付く。どの料理も、馬場氏のサービス精神を感じるもので、「一品はおもしろいものを出したい」と、和の食材と技で作る洋食も必ず供される。冬になると登場するビーフシチューは、オープン当初から人気のメニュー。かつおだしをベースに八丁味噌や白味噌を使って8時間煮込むことで、バターやブイヨンをはじめとする洋の食材を使わずとも、こっくり濃厚な味わいに。ビーフシチュー以外にも和風デミグラスソースを添えた伊勢海老フライやビフカツ、コロッケが出されることもある。

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味噌やかつおだしを使った和風ビーフシチュー。パンのかわりに麩が添えられる

しのぎとして必ず出される自家製の手打ちそばもバラエティ豊か。寒くなり始めた頃には、殻ごと挽いた挽きぐるみの二八そばをかけそばで出されるほか、うどんや中華そば、和風坦坦麵が登場することも。

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馬場氏が自身で打つ挽きぐるみの二八そば。玄琢ねぎの間引き菜と炒ったそばの実をトッピング

また、向付も、造りに醤油を添えるシンプルなスタイルで出すことはなく、趣向が凝らされている。例えば晩秋の時期、向付に出されるフグは、ぶつ刺しのほか、別皿に白子ぽん酢や身皮の梅肉和え、ぷりぷりとしたふぐの身と皮の間のゼラチン質である遠江(とうとうみ)の味噌焼きが盛られ、フグのいろいろな部位を味わいつくせる。

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フグづくしの前菜。珍味の盛り合わせは魯山人写しの角皿にのせて。角皿に描かれた田んぼの畔道が、鷹峯の景色を彷彿させるそう

店のある鷹峯界隈は、畑が多く、鷹峯唐辛子をはじめとする伝統野菜が生産されていて、コースに地元の野菜がふんだんに使われているのも魅力だ。

「鷹峯は、私たち夫婦共に生まれ育った地元なんです。界隈には農家をやっている昔からの知り合いが多く、食材には困りません。朝採れの野菜は、味や香りが全然違います」

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鷹峯で朝採れたばかりの金時人参やかぶらの間引き菜、海老芋など

京都の冬の名物、かぶら蒸しにも地元で朝採れたかぶらが使われている。かぶら蒸しは、すりおろしたかぶらを卵白と混ぜ、魚の上にかけて蒸し、だしの餡をかけていただく料理だが、こちらではかぶらをすりおろした時に出る汁をだしに混ぜている。そのため、餡からも力強いかぶらのうまみを感じることができる。

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かぶら蒸しにはグジ(甘鯛)を使うことが多いが、今回はキンキを使用。脂ののったキンキと卵白入りのふわふわのかぶら、だしと餡のハーモニーが味わい深い

また、玄琢ねぎや金時にんじん、かぶらなどの間引き菜がさりげなく使われてるなど、市場に出回らない野菜に出会えることも。馬場氏の作る料理は、奇をてらわず、和食の伝統を守りつつもワクワクさせる創意工夫が随所に感じられる。

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次はどんな料理が出てくるか、再訪したくなる店であり、7年前のオープン時から毎月通う常連客もいるほど。地元客のリピート率も高く、カウンターは1、2カ月先まで予約が埋まっていることが多いが、移転後に登場したテーブル席は、予約が比較的とれやすく狙い目だ。店の隣には、自然豊かな景観を生かしたリゾートホテルや、年内には、付近に高級外資系ホテルも誕生する。静寂に包まれた京都ステイの地としても注目を浴びる鷹峯で、しばし都会の喧噪を忘れ、口福な時間を味わいたい。

取材・文/天野 準子、撮影/福森 クニヒロ

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