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ぐるなび

東京都内の“おいしい”探訪記

2020.3.12

「お客様が喜ぶ料理をご提供するため、24時間料理のことばかりを考えています」

アサヒナガストロノーム 代表 朝比奈悟

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日本橋 兜町といえば、昔から日本の証券や金融の拠点として世界に知られ、歴史ある建物が建ち並ぶ。その金融街の中心にあるレストランともなれば、接待などビジネスシーンでの利用を連想させる、どこか恭しくフォーマルな雰囲気のレストランをイメージするかもしれない。そんな兜町の重厚な雰囲気とは打って変わって、2018年10月、東京証券取引所の目前にオープンした「ASAHINA Gastronome(アサヒナガストロノーム)」は、しなやかで美しい絵画のような料理を紡ぎ出すフレンチレストランだ。多くのゲストを魅了する「アサヒナガストロノーム」とは、そのインスピレーションはどこから得られるのだろうか。

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昨年2019年11月に発表された『ミシュランガイド東京 2020』に、「アサヒナガストロノーム」は、一つ星として初登場した。昼間はビジネスマンで賑わうこのエリアにも、夜ともなれば石畳に水銀灯が灯り、パリ郊外を思わせるような独特の雰囲気が漂う。スタイリッシュな両開きのエントランスは、格式高い街並みにも存在感を示している。

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店内に案内されると、広々とした空間にゆったりと間隔が保たれたテーブル、そこに寛ぐゲストたちの姿が目に入る。46坪という広さを有しながらも、あえて20席しか設けていないという。ベージュを基調に落ち着いた色合いで統一されたインテリアに、ガラス張りのキッチンがダイニングからもよく見える。料理人たちの無駄のない手捌きが、迫力ある臨場感と適度な緊張感を生み出している。

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空間を仕切ることで、店内の一画を個室としても利用できる(2名から8名で利用可能。個室使用料 10,000円)

シェフを務めるのは、代表 朝比奈悟氏。国内外で数多くの料理コンクールに入賞し、活躍してきた料理人だ。その料理人生は、1991年に横浜・みなとみらいのシンボルとして名高い外資系ホテルのフレンチレストランでスタートし、約5年で料理長に抜擢。その後2004年には、世界的なフランス料理界の巨匠であったジョエル・ロブションのレストラングループに加わり、「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」の副料理長に就任した。その後、フランスで修業をした後に帰国。グループ内複数店舗の料理統括・監修を歴任し、2011年からは「シャトーレストラン ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション」にて料理長を7年間務めた。

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自身の料理のテーマを「伝統の継承と現代の革新」であると朝比奈氏が述べる通り、どの料理も伝統的な技術を守りながら輪郭のしっかりとした食味。そこに、野菜や旬の食材が生かされ軽やかに味わえる。「味はもちろん、見た目の美しさにもこだわっています」という言葉の通り、テーブルにサーブされた瞬間に目を奪われるほど、その美しいプレゼンテーションは印象的だ。

活オマールブルーを甲殻類ジュレでコーティング 根セロリのレムラード

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ランチは前菜2皿、魚料理、肉料理、デザート2種のコース 10,000円(税・サービス別、以下同)。ディナーは冷前菜2皿、温前菜、魚料理、肉料理、デザート2皿のコース 18,000円(2020年4月1日から20,000円)。いずれもアミューズ、小菓子、コーヒーまたは紅茶が付く。コース内容は、毎週少しずつ食材などの内容が新しくなり、季節毎に内容が大きく刷新される。フランスワインが数多く取り揃えられ、ペアリングで楽しむこともできる(ランチ 4,000円~、ディナー 9,000円~)

オマールブルーを使った冷前菜は、デセールとも見紛うほど細部まで美しく仕上げられている。下には、シャキシャキとした根セロリに自家製マヨネーズ、マスタード、ビネガーを使ったレムラードソースを合わせる。刻んだ黒トリュフにオマールの卵がアクセントになっている。

デリケートなズッキーニのタルト・フランベ

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春先に提供している、ズッキーニのタルト・フランベ。パイ生地は5層になっており、バターの心地よい香りが食欲をかきたてる。抽象画のようにアーティスティックな見た目に対し、ズッキーニ、エシャロット、ベーコンの組み合わせは、どこかホッとする味わいだ。

クロワゼ鴨のロティとフォアグラのプレッセ 香り高い“ジュ”を添えて

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クロワゼ鴨を余すところなく使ったメインディッシュ。手前には赤身肉のうまみを引き出した胸肉のロティ、奥にはモモ肉と野菜を首の皮で巻いたソーセージ。鴨のフォアグラのテリーヌは、立体的なデザインで変化を加えて。鴨の砂肝も合わせ、様々な食感と味わいを堪能できる。

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食材については、フランス産に重きを置いてきたという朝比奈氏。その理由を「現代のガストロノミーでは地産地消がトレンドで、日本のレストランでは日本の食材がとても多く使われているように感じます。しかし、食材の本質を見極めるとフランス料理だからこそ、フランスの素晴らしい食材が相応しい料理も多いと考えています」と答える。その一方、日本国内の農園や養殖場の視察にもよく訪れるという。「日本でも素晴らしい出会いがあります。視察を通して生産者の皆様にふれあい、食材の素晴らしさを肌で感じる機会を得ることが出来ます。」フランス、日本両国の食材を通して、朝比奈氏のインスピレーションは形作られている。

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店内の空間美はもちろん、料理全体の印象を高めているのが、こだわりのテーブルウェア。洗練されたバロック様式の装飾が印象的なカトラリーシリーズやショープレートが目を引く。ポイントに、金継ぎなど異なる陶器の質感や芸術性をうまく取り入れている。これらのテーブルウェアはもちろん、インテリアの選定から内装の設計まで、朝比奈氏自らが関わることで、ゲストへの食体験には一貫性が保たれている。

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多くのゲストを魅了する繊細で美しく、芸術性の高い料理の数々。その洗練された美意識やインスピレーションはどこから得られているのであろうか。朝比奈氏の料理が生み出される秘密を話してくれた。

「美術展にはよく訪れます。先日も、バスキア展やベルナール・ビュッフェ展を鑑賞してよい刺激を受けました。お客様が喜ぶ料理をご提供したいので、24時間料理のことばかりを考えていますね」

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「料理人にとって、センスはとても重要です。しかし、技術は学べてもセンスというものは簡単に身に着けることができません」と加える一方、つい先日、朝比奈氏にとっても嬉しいニュースが飛び込んできたという。現在、「アサヒナガストロノーム」でシェフドゥキュイジーヌを務める安達晃一氏が、2020年2月3日に行われたフランスで最も長い歴史を持つコンクール「第70回プロスペール・モンタニエ国際料理コンクール」で、見事優勝したのだ。

安達氏は、「料理コンクールで入賞することはとても努力がいることですが、それよりさらに、朝比奈代表からOKをもらうことの方が大変なんです」と話す。愛弟子たちにも、朝比奈氏のセンスが受け継がれていることは明確だ。

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そんな朝比奈氏が、変わらず抱く想いがあると言う。「レストランは、料理だけではありません。空間もサービスも三位一体。是非とも足を運んでもらって、レストランの価値を感じてもらえたら嬉しいです」

ガストロノミーとは、料理にまつわるその時、その空間で得られる食体験すべてのことである。「アサヒナガストロノーム」が体現する料理、空間、サービスが一体となった、朝比奈氏の追求するガストロノミーに今後ますます注目したい。

取材・文/グルメジャーナリスト 東龍 撮影/登坂未来

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