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ぐるなび

東京都内の“おいしい”探訪記

2020.7.28

「集大成となる新店舗で、クオリティを追求し続けた食感とうまみを味わってほしいです」

とんかつ 成蔵 オーナーシェフ 三谷成藏

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“白いとんかつ”の異名をもち、1日200人を超える行列のため整理券まで導入されていた「とんかつ 成蔵」高田馬場店が、2019年7月、南阿佐ヶ谷に移転オープン。『ミシュランガイド東京 2020』ではビブグルマンとして掲載された。“納得できるクオリティ”を提供することにこだわり、集大成に至るまでのお話を、シェフの三谷成藏氏に伺った。

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店内はテーブル3つとカウンター6席で計14席。ネットからの事前予約制で、2つの鍋で3人前までしか揚げられないため、通常は時差を作り、最大で6名ごとに入店する

約9年半営業した高田馬場店では、整理券を導入する以前、ランチ平均120人、夜は90人が来店し、常に行列のできるとんかつ店として注目されてきた同店。取材時2020年7月で南阿佐ヶ谷へ移転して丸1年になるという。

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叔父が経営する新橋のとんかつ屋で修業をはじめた三谷氏。串揚げ、割烹と異なる業態も経験し、現在の独自のスタイルに行き着いた

「高田馬場時代も、今と同じ小さな鍋2つで揚げていたのですが、毎日200人を超えるお客様に提供しているなかで、どうしても自分が求めるクオリティで揚がらないことに気づいたんです。お客様がたくさん来てくださることは嬉しいですが、とんかつを鍋に何個も揚げると、隙間がなく重なっている部分に火が通らないため、どうしても火を強くする必要があり、衣は硬くなってしまう。もっというと、例えば8人前を揚げるとしたら、1人目のとんかつを切る時点から、最後に切る8人目のとんかつでは、3分くらい余計に余熱が入ってしまうんです。そのうち、たまに取材などで1〜2人前を揚げると、揚がり方が全然違うことに気がついたんです。クオリティを重視するのであれば、もう少し人数を制限して、余裕のある揚げ方ができるように、場所や予約の方法を考えるようになりました」

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今回撮影したメニューは、半分以上のお客様がオーダーするという「シャ豚ブリアン」。使われる豚肉にも並々ならぬこだわりをもつ。

「豚肉をいろいろ食べ歩いていた頃、あるお店でこの豚肉を食べたんです。東京都が作る唯一の地域特産豚肉で、キメの細かさと柔らかさが全然違うことに驚き、卸してもらおうとしたのですが、半頭売りしかしていなかった。ロースとヒレ1本だけを使うために、腕も肩もバラもすべて使わないとロスが出てしまうため、一度は諦めました。そのうち、だしをとるためにヒレ部分は使わないというラーメン屋さんと出会うことができ、やっとこの豚肉を使えるようになったんです。一頭から、ロースは4kgありますが、ヒレは500gしかないので、『シャ豚ブリアン』はとても貴重です」

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ひと切れ65gほどの分厚い「シャ豚ブリアン」を切り分け、小麦粉、卵、パン粉の順につけていく。柔らかいパン粉をぎゅっと押し付けるのは、しっかりと一度でパン粉を付けきらないと、揚げたときに衣が立たないからなのだそう。

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三谷氏が研究を重ねた特注のパン粉は、低糖質にこだわったもの。糖度を極力下げたことで、焦げにくく、白いフワフワの衣に揚がる

油はラードにこだわり、前述した三谷氏が納得のいく仕上がりにするため、揚げるのは一度に3人前まで。熱した油に肉を投入すると、初めは油の音もわずかに聞こえる程度だ。110度ほどの低温から、約10分かけてゆっくりと火を通していくことで、全体的にピンク色の断面と、驚くほど柔らかい肉質が楽しめる。

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揚がったとんかつは、余熱で火を通してからカットされる。断面が見えない状態で、カットするタイミングを伺うと、「持った時の感覚で」と、三谷氏は言う。持ってみてわずかな重みを感じる場合は、水分がまだ残っている状態なので、火が十分に通っていないのだとか。また、カットした際に断面に溢れ出す透明な肉汁も、きちんと火が通った証なのだそう。

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三谷氏オススメの食べ方を伺った。「わずかな塩胡椒の下味だけでおいしいと思うので、最初は何も付けずに。次に塩で、その後はごま油と塩、最後にソースの4段階で楽しんでいただくと良いと思います」。塩は甘みも感じられるピンクロックソルトが、肉の甘みと絶妙に寄り添う。また、ラードの卸し先である油屋のごま油は、肉の風味と相性の良さを感じるだけでなく、塩とともにキャベツにかけるだけでもそのうまみを味わうことができる。

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写真はシャ豚ブリアンかつ3個(180g)定食 5,780円(税込み、以下同)。2個(120g)は4,780円

メニューは、メインのとんかつにごはん、副菜、豚汁がセットになった定食に、単品のヒレかつや、メンチかつ、アジフライなどを追加することも可能。今の時期には、夏季限定の鱧フライも人気だ。切り落としたロースやヒレなどの端を柔らかく煮込んだ豚汁も、贅沢な豚のうまみが味わえる。

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白いとんかつを生み出す、“低温でじっくり揚げる”ことは、言葉でいうほど簡単ではない。冷えて固まった油をイメージできるように、油はその特性上、高温のほうがサラッと、低温だとトロッと固形化してくるため、あまり低温すぎると油切れは悪くなる。しかし「とんかつ 成蔵」では、初めに低温の油で、徐々に温度をあげていき、衣が硬くならないギリギリの高温で鍋から揚げて余熱を通すため、サクッとフワッと口の中で衣が消え去るのだと三谷氏は言う。

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「ひと口目に感じるのは肉ではなく衣なので、口にしたときの食感は特に大切にしています。サクッとした衣は口の中でサッと溶けるので、すぐに広がる肉のうまみを楽しんでほしいですね」

かつての行列店は、求めるクオリティを追求し続け、さらなる新天地を切り拓いた。集大成となる、他では味わえない食感とうまみのリレーをぜひ体感してほしい。

取材・文/藤井存希、撮影/佐々木雅久

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