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ぐるなび

東京都内の“おいしい”探訪記

2020.10.8

「予想ができるおいしさではなく、“振り切った感動” を与えたい」

虎白 店主 小泉瑚佑慈

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『ミシュランガイド東京 2016』から5年連続で三つ星として掲載されている「虎白」。「虎白」が初めて三つ星に掲載された当時、店主 小泉瑚佑慈氏は36歳。同じく三つ星に掲載されている「神楽坂 石かわ」店主 石川秀樹氏を師と仰ぎ、かつて石川氏が料理長を務めていた八重洲の日本料理店へ入店したことが、小泉氏の料理人人生のターニングポイントとなった。3年の修業期間を経て、2003年、石川氏が独立・開店した「神楽坂 石かわ」の創業メンバーとして従事し、2008年、自身が店主を務める「虎白」の暖簾を掲げた。

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狭い路地に石畳、料亭など花街の名残を残す街、神楽坂。12年前「神楽坂 石かわ」の移転が決まった際、もとあった店を改装したのが「虎白」である。その当時から現在まで、小泉氏が変わらず貫いていることがあるという。“お客様に振り切った感動を与えたい”という姿勢だ。

「『虎白』を開業するときに考えたのは、“ここでしか食べられない日本料理で、お客様に喜んでほしい”ということ。たとえば、伝統的な和食では、鱧は湯引きにして梅と合わせたり、じゅんさいとお椀などにしてお出しします。しかし、食べ歩きが好きなお客様だと、ワンシーズンのうち、日本料理ならば多くの店で鱧を召し上がっている。もちろん旬のものはおいしいのですが、そこから振り切った感動というのは、なかなか得られないと思うんです。ですから、だしをしっかり引き、旬の食材を活かすという日本料理の軸をぶらさずに、今までにはない新しいおいしさを引き出すように表現するのが、当初からの『虎白』のスタイルなんです」

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栗の木や杉の木を贅沢に使用した「虎白」の店内。カウンター6席を含めた、全24席

「これまで、トリュフやフォアグラ、キャビア、フカヒレなど、日本料理ではあまり使われてこなかった食材を取り入れたり、バターやチーズ、味噌や醤油の使い方を工夫するなど、試行錯誤を重ねてきました。たとえばトリュフ一つとっても、だし・醤油・味噌どれも相性が良いので、より新しいおいしさが広がります。もちろん、これまでにはないものを作れば喜ばれることに違いありませんが、自己満足になってしまっては意味がない。奇をてらわず、お客様が食べた時に『あ、やっぱり日本料理だ』と感じてもらえるよう意識しながら、予想ができるおいしさではなく、初めて出会う味わいを創り出したかったんです」

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穏やかな語り口と気さくな人柄で、居心地の良い空間を生み出している小泉氏

そして、今回2020年の自粛期間中には、世の中の変化を見極めつつスピーディーに対応することを心がけたという。

「『石かわ』グループ全体で多くのスタッフがいますし、大将の石川と相談し、まずお弁当をやろうと決め、緊急事態宣言が出るその週内には、お持ち帰りでの販売をスタートしました。それに対応しつつ、販売用の商品開発などを進め、店内営業が休業の期間中は、オンラインシステムの整備や宅配の仕組みを整えていきました」

現在は、石かわグループ全体でテイクアウト・お取り寄せの専任チームを編成するなど、飲食業界に大きなダメージを与えた今回のコロナ禍でも、グループ全体の総合力を活かしてきた。また、「虎白」にとっては従業員の働き方も工夫することで、プラスの変化を生み出したという。

「もともと日曜・祝日のみであった定休を、日曜・月曜の連休にしました。そして、平日の夜遅い時間までの営業をやめ、代わりに火曜から土曜は昼の営業をスタートしました。実際の稼働時間はほとんど変わらないのですが、スタッフが丸々お休みできる連休を作れたので、結果、働き方を改善できるいい機会になったと思っています」

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この日の魚はブリ。季節によって、ふぐや金目鯛、のどぐろなど刺身は変わる。魚種によってジュレの酸味を調整し、ミョウガや花穂紫蘇(はなほじそ)などの薬味をあしらった一品。昼・夜おまかせの「基本コース」は35,000円(税・サービス別途)

昼・夜の献立は同じ構成で、おまかせ一本のみ。内容は、旬の食材に合わせ約一カ月ほどで変わる。献立の中で、“虎白流”と呼ぶにふさわしい一つが「お造り」だ。日本料理で供されるそれは、醤油とわさびで食すのが一般的だが、こちらでは鰹節と昆布で引いただしに橙(だいだい)を絞り醤油で香り付けしたものをジュレにし、旬の魚と合わせている。

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旬のアワビは、蒸してもち米とシンプルに合わせるが、薄く引くことでもち米の食感と弾力がうまく調和し、そのうまみともち米の甘みが口の中に広がる。最後に、アワビを蒸しただしをかけていただくと、その豊かな香りを一層楽しむことができる。

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続いて登場したのは、伊勢海老と生ウニの一品。だし醤油を塗った伊勢海老の表面を炭で炙り、殻は炒めて鰹と昆布のだしを合わせ、フレンチのビスク仕立てに。だしをしっかり効かせたことで、伊勢海老やウニの味わいが引き出され、和食らしく澄みきった味わい。伊勢海老の深みのある味わいが、香りと食感のバランスを整え、生ウニとの相性も見事だ。

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「秋は松茸をはじめ、キノコ類や新銀杏、11月になれば蟹も解禁になるので、食材が豊富な季節。とくに今年の松茸は、早くから雨がしっかりと降り、夏にぐっと暑くなってから秋を迎えたので、豊作です」と小泉氏

食材をどのように組み合わせ調理するかを、常に追求している小泉氏。若い頃は実験的なアプローチも多かったというが、少しずつ、料理の表現が変わってきていると話す。

「もちろん今も、ふぐの白子とキャビアを合わせたり、フカヒレをだしで炊いて、炭焼きにした春菊と合わせたりと、新たな提案はしていますが、伝統的な綺麗なおだしに、真薯(しんじょ)を浮かべたりもしています。実は当初、定番中の定番のような、海老や蟹の真薯はあえて避けていたんですが、ここ数年は、作るんだったら、“今までにないおいしさの真薯を作りたい”と思って、つなぎとなる長芋や魚のすり身はほとんど使わず、素材もノドグロやアナゴでチャレンジしたり。海老は焼いたり揚げたりすると香りも甘みもグッと強くなるので、表面だけ240度ほどの高温で焼いて、完全に火を通さない身をすり身にして作ると、これがまたすごくおいしいんです。最近ではありがたいことに、『虎白さんの真薯が楽しみ』と言ってくださる常連のお客様も増えてきて、きっと以前より今の方が、“和の軸”が太くなっているんだと思います」

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「肩肘張らず、ゆっくり食事を楽しめるように」と、あえて個室は設けず、ギャラリーのようにゆったりとした空間を意識した店内

妥協のない姿勢を貫きながらも、自由度を高めてきた「虎白」流の和食。伝統的な料理を掘り起こす、その飽くなき探究心こそが、我々に“振り切った感動”を与えてくれるのかもしれない。

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取材・文/藤井存希、撮影/榊 智朗

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この記事でご紹介したお店のコース

取材した施設

  • レストラン日本料理 虎白

    東京都新宿区神楽坂 3-4

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