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ぐるなび

わざわざ出かけたい国内グルメ旅

2020.11.24

「国際都市・京都で、世界に発信できるレストランを作りたい」

ルーラ 共同代表 宮下拓己、JACOB KEAR(ジェイカブ キア―)、堺部雄介

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2020年11月、『ミシュランガイド京都・大阪+岡山 2021』のセレクションが発表された。その中でイノベーティブカテゴリーにおいて一つ星に掲載された京都の「ルーラ」をご紹介する。

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「ルーラ」は、ニュージーランドで出会った宮下拓己氏、ジェイカブ キア―氏、堺部雄介氏が共同オーナーとして、2019年7月に京都・東山にオープン。世界中のレストランで働いてきた3人が2017年、ニュージーランドのレストランで、ヘッドソムリエ、ヘッドシェフ、バーマネージャーとして共に働くことになり、そしていつしか「世界からゲストが訪れるレストランを創る」という目標を描くようになった。三人共に京都にゆかりはなかったと言うが、日本の地で世界へ挑戦するには、文化的背景を持つ国際都市、京都しかないという想いから、この土地に店を構えるに至った。

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共同オーナーの3人。左から、サービス担当の宮下拓己氏、シェフのジェイカブ キア―氏、ミクソロジストの堺部雄介氏

シェフのジェイカブ氏は、アメリカ人の父と日本人の母の間にうまれ、12歳まで日本で過ごした。ロサンゼルスの都市パサデナの料理学校を修了後は、カリフォルニアや日本、韓国のホテルやレストランで腕を磨き、デンマーク・コペンハーゲンの新北欧料理「Noma」のキッチンに飛び込んだ。2015年「マンダリンオリエンタルホテル東京」で開催された一夜限りの特別ディナーでは、チームの一員にも抜擢され来日。その際、日本の食材やテクニックを使いながらも、既存の日本料理ではない新しいジャンルの料理が創り出されることに感銘を受けたと言う。

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「僕がここで、100%の北欧料理をやっても意味がありません。日本の食材、季節、テクニックをリスペクトしながら、自分らしくクリエイションをしていくことで新たな料理を作っていきたと考えています。自分が育ってきた日本という国や、自分自身が日本人の血を引いていること、日本で過ごした祖母との時間や思い出を、料理を通して伝えたいと思っています」

2017年から京都で不定期に行っていたポップアップレストランでは、クリエイティブなジェイカブ氏の料理は評判を呼び、「ルーラ」はオープン前から話題を集めていた。

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前菜3品のうちの一品「甘エビ、梨とラディッシュ」

ジェイカブ氏の料理は、ビジュアルから斬新なものが多い。前菜の「甘エビ、梨とラディッシュ」では、三角形にカットしたラディッシュのピクルスと、真空パックすることで透明度と甘みが増した梨、沖縄の島胡椒であるヒハツのスライスが飾られ、味わう前から五感を刺激される。ベースは甘エビをたたいたタルタルで、塩水に漬けてフィンガーライムと和えた甘エビの卵と共にいただくと、キャビアのようなプチプチとしたアクセントを楽しめる。また、エビの頭と殻を乾燥させたパウダーや、頭で作ったオイルから、生の甘エビであるのにグリルしたかのような香ばしさを感じさせる。甘エビを余すことなく使い、一口ごとに変わる味や食感、アクセントも秀逸だ。

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「栗ご飯の焼きおにぎり、天然きのこのだしと京番茶」。仕上げには、緑から黄色に移ろいゆく紅葉をイメージしたさつまいもチップスをトッピング

日本の食文化を読み解き、再構築した料理を得意とする「ルーラ」。コースの最後には必ずだし茶漬けが供される。秋は、栗ご飯の焼きおにぎりに天然きのこのだしと京番茶を合わせたスープをかけていただく。おにぎりに塗った栗味噌は、黒ニンニクの製法に習い、60℃で30日かけて火入れし熟成させる。香りや甘みが増した栗を、西京味噌や調味料と合わせている。さらに6時間、弱火にかけて水分を飛ばし、こっくりとした味噌を作り上げる。スープは、セップやポルチーニの別名を持つ天然のアカヤマドリや、香りの高い香茸をはじめとするキノコと、柑橘のような清涼感を持つ黒文字の枝でだしを取り、京番茶のフィルターを通して、スモーキーな香りを纏わせる。栗味噌やスープにも驚くほどの手間と時間がかけられ、素朴に見えて奥行きのある味わいに仕上がっている。

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貯蔵庫には、発酵食品やシロップ、ピクルスなどが並んでいる

「Noma」は料理に発酵食品を多用することで知られているが、ジェイカブ氏もさまざまな発酵食品を自ら作っている。例えば、アスパラは塩で漬けることで、酸のニュアンスやうまみが加わり、チーズにも似た味わいになる。今年の春に提供されたニジマスには、昨年仕込んでおいた白アスパラの塩漬けがソースに使われたのだそう。

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「朝採れ野菜の薪窯焼き」

「新鮮な季節の野菜は、薪窯でシンプルに焼くのが一番おいしい」と、「ルーラ」では、ガス火ではなく、火入れはすべてプリミティブな薪の火で調理されている。コースには必ず「朝採れ野菜の薪窯焼き」が登場し、この日はビーツやブロッコリー、カリフラワー、菊芋など。薪で焼き、塩のみで味付けされ、野菜の滋味深さをダイレクトに味わえる料理だ。野菜の薪窯焼きのメインとなる根セロリは、薄くスライスし、塩水で一晩つける。黒トリュフペーストと根セロリの味噌を塗り重ね、ミルフィーユ状にし、根セロリとリンゴのジュースや昆布で作った自家製のタレを塗りながら3時間ロースト。さらに一晩寝かせてカットした後、薪の熾火でセミドライに仕上げていく。余計な水分が抜けた根セロリと黒トリュフや、根セロリの味噌があいまって、うまみが凝縮した濃厚な味わいに満ちている。さらに、黒トリュフが入った野菜で作るデミグラスソースと共にいただくと、肉料理にも負けない力強い風味が押し寄せてくる。

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今年からミシュランガイドの情報に追加された、サステナビリティに関する情報について、「ルーラ」でもこの薪火について記載されている。「サステナビリティを特に意識して行っているわけではない」と、宮下氏は言うが、薪火以外にも自家製の発酵食品や地産地消の食材に加え、消えゆく伝統工芸や若手作家の器を積極的に使うなど、次世代を意識した取り組みを随所で感じられる。

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3人の共同代表のひとり堺部氏は、ミクソロジストでありカクテルのペアリングを得意とする。コースは、デザート2品を含む料理10品に、7杯のペアリング。アルコールかノンアルコールを選べ、ノンアルコールには、果物のシロップや紅茶や緑茶を発酵させたコブチャなど、発酵食品も多用され、お酒を飲める人もあえてノンアルコールを選択したくなるような魅力的なものも多い。

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大きなガラス窓を配し、静かな住宅街で目を引く存在

店は築120年の民家をリノベーションし、広々とした厨房を取り囲むようにカウンター12席が配されている。薪火やピザ窯から漏れ見える火がゲストの心を和ませ、スタッフのサービスも気負わず、友人の家に遊びに来たような暖かさと楽しさを感じる。また、一斉スタートというスタイルも心地のいい一体感とライブ感を生んでいる。

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食後、デザートをいただく大テーブル。囲炉裏を囲む古の日本の家族の風景をイメージ

食後はカウンターから大テーブルに移り、12名のゲストがテーブルを囲みながらデザートをいただく。これは、ゲストが同じ体験を共有し、交流のなかからカルチャーが生まれる場所になればという想いから。

「飲食をする場としてのレストランではなく、日本を新しい形で体験するショーケースをつくりたい。食べることで人が感動し、癒やされ、幸せを感じ、人生を豊かにする。その体験をルーラで多くの人に伝えたい」という言葉も印象的だ。

取材・文/天野準子、撮影/ハリー中西

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取材した施設

  • レストランイノベーティブ ルーラ

    京都市東山区石泉院町 396

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